そして、とある日の夕方、やっと空席をみつけました。「牛太郎」に初潜入です。 ドキドキ(笑)。
群青の暖簾を払うと、割と若いお兄さんと目があって、 人数を指で示すと、すっとその角へと促してくれる。 「牛太郎」のカウンターは、少々歪んだコの字型。 腰掛けながら、ホッピーと「とんちゃん」を注文します。
淀みない所作で、 グラスに中身を注いで小振りな褐色のボトルの栓を抜くお兄さん。 グラスとボトルをカウンターに降ろして、ホッピーを注ぎ終えたところへ、 「とんちゃん」の小皿が届きます。
「とんちゃん」は、こってりさっくり。見掛けからは想像し難い軽さを想う歯触りで、 あおさ海苔を含んだタレがズルい旨さで誘う。 横に添えた辛味をさっと混ぜれば、そんなズルさがさらに増す。 これが一人前110円也。
煤けた壁や天井を見上げて、 積み重ねてきた年月を想い、その雰囲気に浸る。塗装の剥げはじめた額で囲んだ拍子木には、 きっと創業当時からの「牛太郎」応援団の面々の名が並ぶ。 左から瓦、塗装、建具、板金、タイル、材木、鉄骨、建築。 もしかしたら、「牛太郎」店舗の設えに参画した方々なのかもしれません。
そして、その額の右手に目を遣ると、 太く寄席文字風に”大入り”と彫った上に「がんばれ!牛太郎」の文字。応援団の心意気が伝わるようです。
幕板の上にグラスを載せて、中身を所望。オッサン率95%のカウンターを見回して、 いつに間にか満席になっているのに気づく。 煙草が煙たいのが難儀なところだけれど、仂く人の酒場では致し方ありません。
小皿に盛る感じでやってくると思っていた「煮込みどうふ」が、 意外にもたっぷりした両手鍋でやってきました。それは、とろーんとした味噌仕立て。 甘し旨しなモツをツニュっとして、ホッピーをきゅきゅっと。 熱々の豆腐をホフハフとしてまた、ホッピーをきゅきゅっと、ね。 誰もが温まる「煮込みどうふ」は、金280円也。
そして、もつ焼きを数本所望する。「牛太郎」では、塩ではなく、タレの串を推奨しているようなので、 郷に入ればとすべてをタレでお願いします。
「かしら」はもう、ただただ旨い。 「なんこつ」は、鶏皮?な感じもする不思議な食感が面白い。 ちょいレアな焼き加減がいい、「レバー」。 三種類の「つくね」から選んだのは、「めんたい」バージョン。 辛子をちょんして齧れば、なるほどめんたいが顔を出す。 そこそこな辛さと明太子の風味に思わずニッコリだ。
武蔵小山に仂く人の酒場、オヤジの巣窟「牛太郎」あり。今夕の呑み代、〆て1,320円也。 「牛太郎」の魅力はこの、圧倒的な値段の安さだけでは勿論ないけれど、 常連オヤジたちの日参の原資となっていることには疑いがない。 引退したと聞くおやじさんや女将さんが不在となった時には、 寂しさとともに店の存続を危ぶむ想いも交錯したことでしょう。 でも、十分にその意を汲んでいるようにお見受けするお兄さんの存在感のお陰で、 オヤジたちは今日も酔っ払えているのではないかな。
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「牛太郎」 品川区小山4-3-13 [Map] 03-3781-2532
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