
ホテルから乗ったタクシーは、
具志堅用高記念館の前を通って、
海岸線に平行して東へと進みます。
打ち水のされたアプローチから邸内へと折れ入る車。
今夜のご一献にとやってきたのは、
八重山郷土料理の店「舟蔵の里」です。
そうと気づかずに、さっきまでお世話になっていたダイビングサービスのご近所にまた戻ってきてしまったことが可笑しくて、笑いながら佇むは、赤瓦の門の前。


甕を満たした水に涼しげに浮かぶハイビスカスの華が、南国の雰囲気を呼んでいます。
宴の場となるのは、同じく赤瓦が守る古民家(カーラヤー)。
暖簾を払って、木の扉を引くと、
やや遠くで聞こえていた三線の音と謡いの声が身近に聞こえてきました。
座敷は既に多くの先客たちで埋まっています。
案内された座卓のすぐ脇には、
外からも聞こえていた三線の音色と八重山民謡を唄う声の主。


「島人ぬ宝」とか「竹富島で会いましょう」など、
聴き慣れた石垣島出身BEGINのナンバーも心地いい。
やっぱり乾杯は、「オリオン」でね(笑)。
口開きの酒肴は、「パパイヤとオオタニワタリ新芽のごまよごし」。

代表的な島野菜の両雄を胡麻和えに。
湯引きしたであろうパパイヤのしゃくっとした歯触りと大谷渡りの新芽の辺り。
東京でも普段からいただきたいなと思う、小粋なお惣菜です。
メニューに「ギーラドーフ」なる、初めて拝見する一節がある。
しゃこ貝の肝、生がきに似た珍味中の珍味、との説明書き。
なるほど、見た目は牡蠣のようでなくもない。

ところが正直、これは駄目(笑)。
磯くさーい生牡蠣には幾つも出会ってきたけれど、あまりにも……。
獲ったばかりでもここまで臭いのか、知りたいところです。
そして、やっぱり気になるのが、定番の「どぅる天」。

田芋とずいき、椎茸、蒲鉾などの練り物を、とある。
その通り、つまりは大好きな「どぅるわかしー」を揚げちゃったものとして認識しております。
片栗の叩き方や油の温度管理なんかがややぞんざいな気もするけど、
オリオンにも泡盛にも合う、お気にな島の郷土料理です。
「請福」のグラスを舐めなめ、改めてメニューを眺めると、
「のこぎりがざみ」が載っているのに目が留まる。
お値段1,500円より。
ご存知マングローブカニもあったり、なかったりするのだろうなぁと訊ねると、
小さいものでよろしければあるのですが、とのこと。

立派なものに大枚叩くノリでもないので渡りに船と注文すると、
それがちょっと残念なことに。
小さいことと、既にそれなりの兄貴になっていたであろうこともあって、
身が痩せちゃってる感じ。
また、どこかで「のこぎりがざみ」の魅力の発露を探したいな。
それはどうなんでしょうと(笑)、「石垣牛もつ煮」。

こっくりと柔らかに仕立ててあって、旨みたっぷり。
石垣牛のモツであるからかは判然としないけど、
再訪したならまたお願いしたい酒肴であります。

島の豚肉の海塩に漬け込んだ「スーチキ」がメインの「すーちきサラダ」をいただきつつ、「そーみんたしゃー」。

油の香り香ばしくシンプルに炒めた素麺。
ツマミにもちょっとした〆にもなる、素朴なひと皿であります。
酒瓶を背にしたカウンター席で唄っていた御仁が、
ケースに仕舞った三線を手に背中を向けたのが目に留まる。
こちらもそろそろお暇しましょう。
市街地から離れ、ゆったり素朴に過ごせる、八重山郷土料理の店「舟蔵の里」。

石垣で郷土料理・島料理のお店となれば、
「華穂」「こっかーら」「森の賢者」あたりを思い浮かべる。
ハコが大きくなればなるほど、料理や応接への集中力がふと欠けたりするもので、
純粋に料理を愉しみたければハコの小さなところへと足を運ぶのがよいことを改めて思ったりもしました。
三線に合わせて和やかに唄い口ずさむのも悪くないけどね。
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「舟蔵の里」
石垣市字新川2468-1[Map] 0980-82-8108
http://www.funakuranosato.com/
column/03166