
人形町、一本裏手に延びる路地。
そこに昔ながらの風情を映す、
一軒のお店がずっと気になっていました。
黒塀の古民家を舞台にした、
お好み焼き「松浪」。
格子戸の隙間から零れる灯りが誘っています。
予約をするとコースになってしまうというシステムで、ならばフリの客で行こうとすると満席御免と相成る。
素直に予約を入れて出掛けるのがよいのだねと合点して足を運んだ冬の夜。
襖を外してふた間続きにした部屋の奥、縁側に面した鉄板を皆で囲みます。

麦酒のジョッキをカチャンと合わせてから、温まった鉄板に載せたのは、生しいたけと三つ葉。

跳ねる油にこりゃいかんと、
みんなして紙エプロンを首に提げるのがどうやらお約束。

バターを溶かしてそこへ帆立を滑らせて、

ちょっと欲しい焦げ目ができたところでお皿にとって醤油を垂らす。
長葱と一緒の鶏もゲソとコンビの生いかもサシの綺麗に入った牛肉も、それぞれにバターのお世話で出来上がり。


みっつの器でやってきたのが、「松浪焼き」「浪花焼き」「芳町焼き」。
松浪焼きは、浅蜊と長葱、天かす。
浪花焼きは、三つ葉、かまぼこに小柱。



「芳町焼き」は牛そぼろ、キャ別に玉子のお好み焼きだ。
なぜに、「キャ別」と表記するのだろね(笑)。
ソースじゃなくて、醤油でってのが、専ら醤油派の自分にはいいぞ。

鉄板焼きといえば、
やっぱりこれも食べねばと追加したのが「かきバター」。
溶かしたバターの上に、片栗粉をたっぷり纏った牡蠣をON。
しっかり焦げ目をつけたところで、ハフハフしてからそっと食む。

もうひと回り大振りであってくれるとまた醍醐味が違うのだろうけど、悪くない。
やきそばを啜って、すっかりお腹も膨らんだところで、デザートを。
それは、壁に据えた額の中に並ぶ品札の一番隅に、ちょっと不思議な一枚を見つけていたからです。
その名を「くろんぼ」。
まぁ、大体想像はつく通り、あんこを生地に溶いて、焼いちゃうヤツ。

うん、素朴な菓子と申せましょう。
戦禍を逃れた人形町の裏路地で、醤油味のお好み焼きの鉄板、「松浪」。

焦げた醤油の匂いと家族経営の温かさや下町ックな人情が古民家のそこここに籠っています。
「松浪」 中央区日本橋人形町2-25-6
[Map] 03-3666-7773
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