地粉手打ちうどん「たべもの処 蔵」でつゆも麺も冷え切ったうどんにこりゃ酷い

kura小平駅の南側を走る都立狭山・境緑道。
のんびり散歩もよく似合うその緑道沿いにある、武蔵野うどんの店「指田屋」の女将さんに教えてもらったのが、その緑道の先にある「小平ふるさと村」でした。
小平の地がそもそも、玉川上水の開通に伴って開発が行われた新田村落であり、街道沿いに屋敷森に囲まれた農家が並び、その周囲に畑の広がる土地なのでありました。

そんな郷土の風土と文化を遺そうと、
設けられたのが「小平ふるさと村」。
小平ふるさと村では、
赤い円筒形ポストの建つ郵便局舎の奥にある旧き農家屋敷で、
小平糧うどんと称するうどんをいただけた。
それは、武蔵野手打ちうどん保存普及会会長にして、
“うどん博士”として知られた加藤有次さんが監修したうどん。
間違うことなき武蔵野うどんに秘かに感激したのをよく憶えています。

そして、街並みというか旧き良き建物たちを遺そうという、
そんな取り組みをしている施設が小金井公園の中にもあるらしい。
そして、そこにも武蔵野うどんの店があるらしいと知って、
足を運ぶ機会を窺っていました。

春先の或る週末のこと。
武蔵小金井駅から西武バスに乗って小金井公園へ。kura01kura02kura04広々とした公園内を横切っていくと、
木々の向うにSLのフォルムがみえる。
そして、芝生の連なりの先に、
歴史的建造物「旧光華殿」を改修したという建物が見えてきました。

総栂普請という造りの高橋是清邸の二階は、
是清の書斎や寝室として使われていたそう。kura05そこは、昭和11年の2・26事件の現場になった部屋だといいます。

場内には、強く懐かしさを誘う都電も電停にいたりする。kura06どうやら7500形であるらしいけれど、
それが正しいかとか、
このカナリアイエローが正当の塗装色であるかなどは、
グヤ父さんの見解を待ちたいところ(笑)。

その先のエリアに折れ入ると、
緑青に色付いた看板建築の建物の並ぶ街並みになる。kura07kura08正面にみえる大型の唐破風は、
「子宝湯」という千住にあった銭湯だという。

大開口の小寺醤油店の店先を眺めながらその奥へ進むと、
なんとはなしに見憶えのある暖簾が目に留まる。kura09kura10酒「鍵屋」。
あれ?ここに復元した居酒屋の建物があるってことは、
鶯谷の「鍵屋」がもうないってこと?!と急に動揺したりする。
もう10年も前に一度だけお邪魔したことのある、
根岸・下谷の居酒屋「鍵屋」は今もなお営業を続けている筈。
この建物は、1970年(昭和45年)頃の姿に復元したものだそうだけど、
するってぇと、現存する居酒屋「鍵屋」の建物については、
どう捉えておけばよいのでしょうね。

少しばかりモヤっとした気分になりながら、
踵を返して、園内東ゾーンの通りの真ん中辺りまで戻ってきた。
明治初期に創業した文具店「武居三省堂」の、
これまた看板建築の建物の並びに蔵風にくすんだ建物がある。kura11その二階にあるのが、
地粉手打ちうどんの店「たべもの処 蔵」だ。

金額からして量少な目の予感がしたので、
「武蔵野うどん」のチケットに「大盛り券」を添えて、
一番奥のテーブル席でしばしの待機です。

お品書きを改めて眺めると、
“冷たいうどん”の項に「武蔵野つけうどん」を含めて、
3種類のうどんが並ぶ。
“温かいうどん”の項には、
「武蔵野うどんかけ」を筆頭に7種類のうどんが並んでいます。

お姐さんがお待たせしましたと云いながら、
運んできてくれたお膳を眺める。kura12kura13地粉の色合いは余り感じさせない、
やや細身のうどんには、
成る程、手打ちらしい縒れがみられます。

小皿に載せた刻み葱や玉葱は、
すっかり水に晒したような、
辛味の抜けたもの。kura14それがしっかり冷えている。
これが”糧”だということであれば、
ほうれん草などの青みの野菜を少々、
添えて欲しいところ。

つけ汁には、武蔵野うどん定番の豚バラ肉どころか、
一切の具は、なし。

そんなつけ汁を注いだ器を手にした瞬間、
あれ?っと思う。kura15箸に載せたうどんをつけ汁に浸して、ひと啜り。

ああああああああ!
冷たい、冷た過ぎる!

なんもかもがさっきまで冷蔵庫に入っていたかのように、
キンキンに冷えている。
うどんが細めであることも相俟って、
なんだか冷麦を啜っている気分になる。

酷い、これは酷過ぎる。
誰がつけ汁を冷たいまま供することを思いついたのでしょうか。

お姐さんに、
これっていつもこうして冷たいまま?と訊くと、
なにも戸惑う様子もなく、ハイ、そうですけど、
との答えが返ってきた。
うどんは此処で打っている訳ではないですよね?
と続けて訊ねると、
ハイ、近くの方が打ってくれたものを運び込んで、
こちらで提供しています、と云う。
こんな提供の仕方を許している、
そんなうどん店は一体どこのお店なのだろうと、
更に訊ねると、それはお答えできないと云う。

ううむ。kura16「小平ふるさと村」で、
加藤有次さんが監修したうどんに感激した、
その反動も手伝って、
酷い落胆と妙な憤りに包まれてしまった、
たべもの処「蔵」でのひと時でありました。

都立小金井公園の江戸東京たてもの園に、
武蔵野うどんと称する手打ちうどんの「たべもの処 蔵」がある。kura17都内各所から移築し復元した味ある建物が並ぶ、
そんな園内にあって、
この「蔵」の入った建物は文化遺産でもなんでもなくて、
ただの蔵風建屋に過ぎないものらしい。
消防法あたりの法令への対処も必要なのだろうけど、
なんだかそこにも紛い物をみたような気分で、
とぼとぼと広い公園内をバス停へと戻り歩いたのでありました。
やれやれ。

「たべもの処 蔵」
東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園/江戸東京たてもの園内)
[Map] 042-387-3141  http://www.udonkura.com/

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