BAR「VICTORIA」でマウントフジ無垢の天板と80余年の時間

victoria富士屋ホテルのメインダイニングルームは、その名も「THE FUJIYA」。
ロワールの白ワインを嗜みつつ、肩肘張らない伝統の料理をいただいて、梅の木の絵の掛かるお部屋でまったりとする。
敷地内の徘徊や館内ご案内ツアー、そして花御殿地階の史料展示室の散策と一気に巡った富士屋ホテルのあれこれが脳裏をぐるぐる巡る(笑)。
夜も次第に深まる中、さらなる探訪を果たそうと策を練り始めました。

窓を開けて部屋に少々冷気を入れる。
すると、向かいの山になにやら瓢箪型の灯りが描かれているのが目に留まって身を乗り出してみる。victoria01ほうほう、と眺めると赤い紐の下に「みやのした」の文字もある。
宮ノ下では例年8月に「太閤ひょうたん祭り」が開催されるようで、「ひょうたん」は、太閤、つまりは秀吉の馬印に由来しているそう。
その際にも明星ヶ岳中腹にひょうたんの象りが夜空に浮かび、花火が打ち上げられるらしい。
宮ノ下が秀吉に所縁のあることが判る光景でもありますね。

夜の探索隊は、改めて花御殿を抜け出して、通路を忍び足(笑)。
灯りの落ちたティーラウンジ「オーキッド」の脇を抜け、静まり返ったロビーをそっと小走りにやり過ごす。victoria02victoria03「THE FUJIYA」の扉と宴会場「カスケードルーム」との間にある階段をふたたび忍び足で辿る。
屋内の階下が朱塗で、欄干に擬宝珠を飾っているホテルなんてなかなかそうあるものではありません。

通路を辿るとそのコーナーには、フロントの所在を示す板張りのサインがある。victoria04それは同時に逆方向に「酒場」があることを知らせてくれています。

レトロな味わいの厠に感心しつつ用を足して(笑)、いざ「酒場」へ。victoria05BAR「VICTORIA」と刻んだ硝子越しにカウンターの様子がぼんやりと覗きます。

止まり木に収まって、梅の木の絵のある大判なキーホルダをカウンターに置く。victoria06victoria07ごつごつした縁取りにして厚手の一枚板の天板がどっしりと迫ります。

振り返ったフロアは想像を超える広さで、隅にはグランドピアノ。victoria08暫くしてこのピアノの前に女性が現れて、インプロビゼーションな音を奏でてくれました。

見上げた天井は、極彩色のアクセントを織り込んだ不思議なデザイン。
白塗りの天井に鮮やかな色合いのタイルが埋め込まれてる。victoria09victoria15カウンターの並びには、ビリヤード・キューのラックがあるのだけれど、ビリヤード台は見当たらない。
バーテンダー氏に訊ねると、元々はビリヤード場であったところをバーに転用したもので、今はもうビリヤード台はバックヤードにもないという。
あ、天井のデザインは、ビリヤード台を表現したものなのだね。

改めバックバーに正対して、メニューを捲ってみる。victoria10victoria11バックバーにはこれまた和装の屋根が載っているのが素晴らしい。
酒瓶が富士山を模しているようにも映ります。

やっぱりこれをいただかなければと、オリジナルクラシックカクテル「マウント フジ」を所望します。
ジンをベースにして、卵白にパイナップルジュース、そしてレモンジュース、砂糖少々をシェイク。victoria12victoria13メレンゲ状に表層を覆うクリーミーとグラスを傾けて喉に辿る仄甘い酸味とパインの風味がいい。
昭和12年(1937年)のメニューに既に掲載されている由緒あるカクテルであるようです。

そう云えば、ホテルから”マウント・フジ”は見られるのだろうかとバーテンダー氏に何気なく訊ねると、大変申し訳なさそうにちょっと訳知り顔で、「実は、見えないんです!」と仰る。
えええー!と大袈裟にびっくりしてみたりして(笑)。
その代わりにバックバーに”マウントフジ”があるのかもしれません。

では何かちょっと変わったものをとバーテンダー氏にお願いしてみる。
ニヤリとした氏が手にしたのは、ケンタッキー・バーボンの「OLD GRAND DAD」の100 proof。victoria14ただし、ボトリングされたそのままのバーボンでないのがミソで、一度取り出して松の葉を漬け込んでからボトルに戻したものだそう。
口に含むと成る程、松の葉を連想させる青みが薫って、バーテンダー氏にニヤリと応えます。

今ではきっと入手困難であろう立派なカウンターの天板の全景を改めて拝み見る。victoria16カウンターの板なんてただの板切れだろうと思うなかれ。
無垢材であるのは勿論のこと、耳付きであるかどうかや全長、木目の表情や色合い等々によって価値が変わり、意外とびっくりするような値段であるらしいんだ。

富士屋ホテルの食堂棟の地階に潜むBAR「VICTORIA」。victoria17BAR「VICTORIA」のオープンはなんと、昭和5年(1930年)のことだという。
明治45年に”バー”の名を掲げたという浅草「神谷バー」には及ばないものの、80余年にもなる時間の積み重ねがここにあることになる。
そうそう、花御殿の各客室に名付けられている「花」をイメージした、43種類の「花御殿カクテル」もいただいておくんだったなぁ。
梅のリキュールを使ったカクテルは、ショートかなロングかな。

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「VICTORIA」
神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下359 富士屋ホテル [Map]
0460-82-2211
http://www.fujiyahotel.jp/restaurant/victoria/

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