その橋の袂から川の側道に出れるようになっていて、 そのまま川に沿って進めば、平久橋という橋の下に回り込む。ちょっとした水辺の散歩道になっているようです。
時間調整も兼ねて、散歩道を往って帰ってしてから、 ヨーカドーなんかが入る「深川ギャザリア」方向へ足を進めれば、 手前の角に、歩道脇に草木茂らせた、 江戸茶色のリブ波トタンを貼り込んだ建物が見えてくる。酷暑の中やってきたのは、ご存知、居酒屋「河本」。 待ち合わせたのは、此処にずっとずーーっと来たかったの!と云う、laraさんだ。
信号の向かい側に佇んで、ほんの暫く、味わい深き「河本」の佇まいを眺めていると、 定時よりもちょっと早く、女将さんが暖簾を手に登場された。ああ、すぐさますっとお手伝いするには距離がある。 店のすぐ前で、”シャッター”していれば良かったね。
ふと気がつけば、暖簾の左手にあった「河本」の文字が右手に動いて、 ちょっと凛々しい感じになっている。 以前の「河本」のアップリケ風文字は、ブログタイトルでずっとお世話になってます。
早速、暖簾から中を覗き込んで、久し振りのカウンターに腰掛ける。面取りしたところがさらに擦れて丸みを増したカウンターや、 修繕の跡も微笑ましい丸椅子が迎えてくれる。
ああ、くにちゃんたちとお邪魔した時も熱い日だったなぁ。冷房設備なんてないところが、これまたオツなのだと思ったことを思い出しました。
「河本」でいただく麦酒にはやっぱり、キリンラガーが良く似合う。とうとう来ちゃいましたね~(笑)、と祝杯のグラス。 汗ばんだ額と乾いた喉に、瓶のラガーが涼風を運んでくれます。
左手の壁に掛った品札の文字を愉しく眺めてから、 まずはやっぱりここからと「にこみ」を女将さんに所望します。目の前の鍋から小鉢に取り分けてくれる女将さん。 ああ、あっさりしながら味が滲みて、ホルモンのふるふるが上手にいただける。 やっぱり、旨いです。
「にこみ」の隣に掲げられている札は、 「さらしくじら」とチョークの文字で。さらした鯨は、一種不思議な美しさ。 酸味抑え目の酢味噌との相性や、絶妙で、 味のないようにも思えるくじらが風味の表情を明るくしてくれます。
こんな肴たちには、 麦酒からホッピーに切り替えるのが自然な流れ。 ツー、シャコン!と焼酎を注ぐ女将さんの所作がいい。ずっとずーーっと来たかったんです!と訴えるlaraさんの話に、 うんうんとにこやかに頷き返してくれる女将さんの笑顔と、 どこか飄々とした雰囲気がやっぱりチャーミング。 え!そんなに遠くから!と云ったときの表情なんか、特にね(笑)。
「かけじょうゆ」は、その脇に「マグロぶつ」と括弧書きが添えられて。laraさんが「やっこさん」の大200円也を女将さんに注文した時、 カウンターがほんの少しざわついたのは、 大のサイズがまるまるお豆腐一丁であるのを皆さんご存じだから(笑)。 「もろきゅう」もお供に、朗らかにゆっくりゆっくりホッピーを呑み干します。
ふと、壁の額装を覗き込むと、どなたが認ためたのでしょう、 「居酒屋猫」と題した、「河本」を詠う素敵な書がある。 一節には、「女将は何のてらいもなく、只にこやかに客に対している」と。
戦前からの残り香がいまも心地よく漂う、老舗酒場、木場「河本」。若くして店に立つことになった頃の顛末も、 まさに衒いなくにこやかに話してくれる女将さん。 半世紀にも亘って店に立ち続ける間には、 いろんな苦労や難儀なことが幾つもあったことでしょう。 でも、そんなことは笑い飛ばしてしまうような気風も秘めている。 お元気でと願うのは、それが訪れる客自身のためでもあるから。 寒さが凍みる頃におでんの湯気に包まれるのもまたよいのでしょうね。 laraさん、初「河本」、どうだったかな。
口 関連記事: 居酒屋「河本」で ホッピーにこみにアジす漬仕舞た屋風情の倖せ(07年08月)
「河本」 江東区木場1-3-3 [Map] 03-3644-8738
column/03315