あれもいいね、気になるねと目移り必至のその日のお品書きを互いに眺めながら、麦酒の乾杯。こんもり盛られた「京菜はりはりサラダ」は、玉葱フライのカリカリと京菜のシャキシャキがみるからに嬉しい一品だ。
それはそれで外せないのですと「大粒かきフライ」。それはなるほど、その名に冠するぐらいの大判牡蠣フライ。 ぷっくりして大きいのとは違ってて、やや薄手に思うのは、フライに特に適した牡蠣ということでもないのかもしれません。 こうしてみると、軽くふた口くらいでいただける、ころんとして身の縮みの少ない牡蠣がより美味しいフライになるのだということなのかもしれません。 「大粒かき鍋」という手もあったね。
活き〆のお造りがあれこれある中から選んだのが茨城産の「活うまづら姿盛り」。桶に詰めた氷の上全面に透き通った身をあしらって、小鉢にはお約束の肝。 活き〆であることを示すのは、氷の隅に飾られた頭部の切なくも健気な瞳。 薄らと櫻色を帯びたその身を、紅葉おろし少々溶いたぽん酢でいただいて、その澄んだ甘みにうむむと唸り、その身で肝を包んでいただいては、うむむうまいとふたたび唸ります(笑)。 やっぱり、河豚と遜色ないとも思えちゃう魅力があるね。
「牧野」ではきっとこれも外しちゃならないのでしょう、と「活穴子踊り焼き」。 恭しく運ばれてきた備長炭が紅く揺らめくコンロと今まさにおろし立ての穴子の身。 焼き方のご指南に従って、 皮目を下にその綺麗な切り身を焼き網の上に載せる。 すると、身から脂が滲む同時に皮目が持ち上げるかのようにみるみる身が反り返ってくる。 様子をみてひっくり返し、身の方を軽く炙っていただきます。溢れ出す濁りなき旨みと加減のいい脂の甘み。 焼いた穴子がこんなに美味しいなんて、ただただ吃驚だ。
そして、冬場の「牧野」の看板、肝入り特製みそ仕立て「あんこう鍋」。白菜などの野菜に続いて、ふつふつ沸いた鍋へとぶつ切りされた七つ道具と思しき鮟鱇の身を投じます。 ふたたびふつふつとして、煮えるのが待ちきれないように鍋に伸ばす箸。うん、いいね、旨いね、いいね。 ほどよく肝が溶けてきたあたりでまたコクが増してきて、まったりとした魅力も広がって。 老舗料亭「いせ源」では、上品系の醤油仕立てだったけど、 鮟鱇は味噌仕立て鍋もよく似合う。 さすれば、月島「ほていさん」のあんこう鍋はさしずめ、 キモ仕立てということになるのかも(笑)。 この日の鮟鱇も青森、むつ港から。 東京だと、茨城の鮟鱇が多いというイメージでいたけれど、青森の鮟鱇も選ばれているのだね。 勿論、雑炊にしてもらって最後の最後まで堪能してしまうのが、正しいいただき方でございましょう。
時季時季のさまざまな活魚料理、そして冬にはあんこう鍋。 気になる酒肴に事欠かない旧東海道近くの割烹「牧野」の創業は、昭和14年。 こちらもまた、季節を代えて訪れたい一軒です。 口 関連記事: あんこう鍋「いせ源」で 風間浦鮟鱇の刺身肝燻製と名代鍋の宴(11年04月)
「牧野」 品川区北品川2-19-2 [Map] 03-3471-3797
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