
京急線新馬場のホームに降りる。
今まで利用してきた改札は、
山手通りを跨いだ北側ばかり。
そうそう、「活穴子踊り焼き」を堪能させてくれた「牧野」も北口方面にあるお店。
ただ、目黒川を跨ぐ反対側にも改札口がある。
一軒のラーメン店目指して、南側の改札口を擦り抜けました。
新馬場の南口は、京急の高架の真下に出る。

どうやら、京急を高架化するに際して、
北馬場駅・南馬場駅とふたつあった駅を中間点で統合したことから、
南北に間延びした印象の駅になったらしい。
強まる雨音の中、やや薄暗いガランとしたアプローチを進みます。
すぐに第一京浜に突き当たる南馬場の通り。
と、斜め前方にちょっとした横丁を思わせるアーチがあって、
ささやかにふたつの提灯が燈ってる。

路地を覗き込むと両脇にそれぞれ一軒づつ店があるのみ。
いい風情なのに横丁と呼べるものではないなぁと少々残念に想いつつ。
そして、目的の店「東京いまむら」は、そのアーチの脇にありました。
茶色い暖簾の横手から空席を確かめて、引き戸を開ける。
ぐっと狭い店内。

カウンター横一列が畳敷きになっているのが目に留まります。
そこここに貼られた張り紙に目移りして、キョロキョロしてから、
お品書きの御本尊と思われる額装の文字を目で追います。

暖簾を払う時点で既に、煮干しの芳しき匂いに浮き足立っている。
漢方処方チックな語り口で、
“中毒症状の方の煮干しスープ”とあるのをみつけて、ニヤリとして頷きます。
前払いのお代を済ませて、煮干しスープの「叉焼雲呑ソバ」をいただきましょう。
カウンターと同じ畳敷きを座布団にドンブリが置かれる。

潔い白とやや鋭角な側面の角度にらーめんドンブリの黄金律を思ったりして。
恭しく両の手で拝み受けて、手許へと収めます。
立ち昇る煮干しのクリアな香り。


意外と澄んだスープにそっと蓮華を挿し入れて、そっと啜る。
むほほほほー。
煮干しラヴァーは、煮干し由来の仄かなえぐみや苦みにもそれらしいと喜んだりする(?)のだけれど、そんな濁りを思わせずに真っ直ぐ旨い。
ああ、甘露甘露。

それも一種の拘りに思う太い箸で掬うは、
細めストレート麺。

煮干し系スープにはやっぱりこんな麺が間違いなく好相性でありますね。

そぼ降る雨の別の夜。
気になっていた貼り紙の正体を明かそうと、
新番場の南口へふたたびやってきました。
貼り紙には、「煮干し好きに捧ぐ、煮干し増しシステム開封」とあって、
4倍、7倍、10倍とラインナップ。
これはもう、10倍を試してみるしかないでしょう(笑)。
「こっちはジャンクなヤツですよ」と聞いていた通りの見映えのどんぶり。



それは、魚粉ならぬ煮干し粉をわらわらと注ぎ込んだスープ。
なんか砂を噛むような食べ口だったらどうしようと一瞬危惧するも、
それが案外そうでもないからこれまたびっくり。
煮干しジャンク10倍にしながら、とっ散らからず纏めて込んでしまう、
そんな手練に感心なのであります。
振り返った硝子引き戸にも貼り紙があって、それはジャンクじゃない方の「煮干し増し表」。
極上イワシ、極上ウルメ、アジ干し、サバ干し、極上アゴだしと煮干しのラインナップが並ぶ。

それぞれの2倍、4倍、8倍でオーダーする手も勿論あるのだけれど、
ここはひとつ、常連様限定ミックススペシャルの最上級8倍をいただけますでしょか。
袋の中から掴み出した煮干しの幾つかを手鍋に炊いているよなご様子。
いよいよスープが主題に想うどんぶりの景色が届きました。




ああ、もう、うーむと唸る。
とってもシンプルな旨みなのに、ちょっと探ると嬉しそうに多層な表情を魅せる。
それがニクい。
お陰さまで、綺麗にドンブリの底までに呑み干してしまいました(笑)。
煮干し使いも巧みなる、新馬場南口のらー麺処「東京いまむら」。

神奈川の何処かで創業して、転々としてきたらしい「いまむら」店主。
独創的にして端正なドンブリたちは、
マニアックな感性と探究心が齎したであろうことがひしひしと判る。
今度は、店主の気の向いた日本酒のおススメも訊いてみようかな。
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割烹「牧野」で吃驚の活穴子踊り焼き味噌仕立て肝入あんこう鍋(11年05月)
「東京いまむら」
東京都品川区南品川2-9-2 [Map]
http://ameblo.jp/tokyo-imamura/
column/03324