「大助うどん」の所在は練馬区内で、東村山や小平、東大和といった北寄りの都下のみならず、地続きの練馬にも土着のうどん文化があることが窺えます。
その「大助うどん」と目と鼻の先、埼玉に少し入った新座市の住宅地にも地元にしっかりと根を下ろしている武蔵野うどんの店、うどんや「藤」がある。
開店時間早々に暖簾を潜ると、
奥の座敷で姐さんがうどんの玉に載り、踏んでいる。
手打ちを疑うことも元々ないけれど、
その光景を偶然にも目にすれば、
「ですよねー」と思わずにんまりとしてしまいます(笑)。
厨房前の数席のカウンターの後ろを通り過ぎ、
奥の座敷に上がり込む。
原木を大胆に刻んで造ったと思しき長テーブルの角は恐らく、
長年に亘って沢山のひとに擦られて、より丸くなっています。
どうやら色紙短冊に書かれているのが基本メニューで、
幾つかの短冊にはおススメマークが添えられている。
額装には「お客さまへ」と題したメッセージがあって、
無農薬の最高級の地粉を使っていること、
そして、註文を受けてから手切りし、
茹で上げ(そして〆)るので、
提供までそれ相応の時間が掛かることを伝えている。
至極当然のことだけれど、
武蔵野うどんにとって、どんな地粉を使っているかがまず生命線。
その上で、延べた生地から切るところからはじめるうどん店は、
そうそうないのではないかと想像します。
期待高まる中でやってきたのは、
肉もりうどん肉増し二倍+天ぷらだ。
所謂”糧”の要素を含んだ薬味の小皿に、
笊に盛ったうどんの頂上にちょんと載せた刻み海苔。
実に、実に素晴らしいフォーメーションであります(笑)。
成程、一瞥すればすぐそれと判る、
地粉で打ったと思わせるうどんの色味とうねりが、いい。
真っすぐにかつ当然のように地粉で打っている。
その姿からも地粉の風味が漂うようなうどんが嬉しいね。
武蔵野うどん店では、”肉増し”が出来ないか、
訊ねることが多いのだけれど、
ここ「藤」では、壁に貼り紙があるし、
お品書きにもしっかりと書いてある。
しかも、1.5倍に加え、2倍の設定もあるなんて、
判っていらっしゃる(笑)。
そう、武蔵野うどん=肉汁うどんは、
つけ汁に滲み出た豚ばら肉の脂の甘味もまた、
魅力のひとつなのであります。
肉増しできますと伝える貼り紙の並びで気になっていた、
上州みそ煮込みうどんを目指してまた新座にやってきた。
具沢山がよく判る景色がこれまた嬉しがらせます。
もりうどん、つけうどんでなく、温かいうどん。
さらには煮込みうどんに仕立てても、
決して柔く撓垂れることのない地粉うどん。
かといって、決して硬いうどんではないことも、
佳い武蔵野うどんの大事な条件だ。
硬さと”コシ”とは全く異なる状態なのですもンね。
新座の住宅地、武野通り沿いに、
手打ちうどんや「藤」はある。
かなり草臥れてきてしまっているけれど、
樹皮で化粧した庇が何気に表情があって、いい。
ここにもまた、
正統派武蔵野うどん店の風格ある一軒があります。
「藤」
埼玉県新座市片山3-13-32-102 [Map] 048-482-5775
https://udonyafuji.com/