ちょうど駅前に真っ直ぐ通じる横丁の角に、 いい雰囲気の暖簾を認める。暖簾の中央には、円に”金”の文字。 二箇所ある入口と暖簾にどちらから入るべきかちょっと悩んでから(笑)、 まずは向かって左手の暖簾から、こんばんは。
ざわざわとした賑わいに包まれながら、 ここのテーブルでねーと居場所が決まる。 座りながら見つけた品札で、「にこみ」。 そして、「ホッピー」を所望します。煮込みは、あっさりとして、 ゆるやかな味噌仕立てとゆうか、塩仕立て。 ああ、「煮込み」と「ホッピー」とは、どうしてこんなに似合うのでありましょうか。
ホールの姐さんたちは、やや片言のアジア系のひとが多い。 どこか知らん振りな表情なのに(笑)、いいタイミングで「中?」と訊いてくれるのが、 妙に嬉しい。
「とり皮酢味噌」、旨し。こりっとしゃくっとした歯触りが酢味噌の風味に昇華する。
焼き台の前では、眼光鋭き大将が炭の機嫌を窺い、焼き目を確かめる。鉢巻を鯔背に結び、その鉢巻にボールペンを挟んだ大将が、 凛々しくも恰好いい。 ほいきた、とばかりに皿に盛っては、姐さんたちに声を掛ける。 折角の焼き立てをちょっとでも放っとこうものなら、厳つい指示が飛んでいきます。 オヤジさんが焼く串なら間違いないや。 ライブな背中にみんな、そんな安寧を覚えていることでしょう。
もつやき2本にとりにんにく。 とりにんにくは勿論、間にニンニクを挟んだ串。 いひひ、これがこれまた妙に旨い。 大将の背中に、小さくそう呟きます。
別の宵闇にふたたび暖簾を潜って、 今度は細長いコの字カウンターの一席に交ぜてもらう。 やっぱり「ホッピー」と、「にこみ」ならぬ「煮込豆腐」ではじめます。
肉だんご、とりかわ。タレの串もよいけれど、塩の串がより呑兵衛らしい(笑)。 塩で一人前ね、なんて手もある模様。
紫煙漂うカウンターも、そこにホッピーが林立している様が愉しい。 ふと「家族ゲーム」のシチュエーションを思い出す。 余りに表情豊かな面々ゆえ、 誰が問う訳でもないのに、その中の一員に自分はなれているのだろうかと思ったりして。 カウンターの皆さんの心象観察をちょっとするだけで、小説が書けそうな気になる。 常連さんの中にはきっと、注文の順番とその呑み代の計算とが席に着く前から出来上がっているひとが少なからずいるような気もします。
焼き台に向かって左手の壁上には、 長年の煙や油に燻されて判読不能となりかかった額がある。創業時に酒の値段を示したものらしいけれど、 上段は、”ビール30″、”下段は二級酒55″と読める。 中段の90円は、何の値段だろうね。
昭和39年創業のもつ焼き「金ちゃん」。ホッピー1本、中みっつで結構出来上がる(笑)。 今度は、もうひとつの暖簾から常連さんたちの隙間に潜り込もう。
「金ちゃん」 練馬区豊玉北5-16-3 [Map] 03-3994-2507
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