同僚に青森な店で一杯呑ろうと誘ったのは、この3月半ばのことでありました。
予約の電話に、活きのいい声が応える。
大和山という東京にいると珍しく思うお名前の若き大将の顔が浮かぶ。
並んで厨房にいる、朴訥なる青森の調理師然とした相棒のおっちゃんの姿も思い出させます。
こんばんはと声を掛けて、カウンターに腰掛ける。
一杯だけと麦酒をもらって、早速届いたのが、ご存知「せんべい汁」。お通しが菊花をあしらったせんべい汁って居酒屋は、都内にはそうあるものではありません。
しっかりした出汁が沁みたせんべいの、場所により食感も違う感じが懐かしい。
烏賊の沖漬けの澄んだ滋味にググッと惹かれる。これで日本酒を呑まない手はないでしょう(笑)。
まずは此処からとお品書きを眺めて「田酒」の純米吟醸。沖漬けにもよーく似合うのは、云うまでもないでしょう。
むつ産「海峡サーモン」をいただけば、なんて鮮やかで美しい彩なのか!と絶句する。繊細にして溢れる甘さに、あとは唸るばかりです。
唸らせるよな魚と云えば、やっぱり「八戸前沖〆鯖」も外せない。それはもう、お約束のように美麗な断面にまず唸り、おろし山葵をほんの少しちょんのせして口に運んだその身の香りと甘さ滋味にまた唸ります。
そんな勢いでお願いしたのが「殻つき生ガキ」。大き過ぎず小さ過ぎずのサイズも良好、ぺろんとひと口がすっきり旨い。
外套膜もしっかりした牡蠣は、三陸は岩手から届いたものだそう。
秋田モノ「いぶりがっこ」なんぞを挟みつつ「田酒」のお代わりグラスを干したところに八戸の「ホヤの塩辛」。濁りのない磯の香りに今度は「豊盃」純米吟醸を所望します。
「豊盃」もやっぱりイケるなぁと話しつつ、更に追い討ちをかけるにはと選んだのが「イカの丸煮付」。これもまた、八戸名物!と謳うに相応しい逸品。
肝と和えて焼いた烏賊もズルイけど、こうして肝を活かして煮付けるってのもやっぱりズルイ。
「豊盃」がクイクイいけてしまうのは、こいつの所為であります(笑)。
このままでは吞み過ぎちまうよねと自制して「八戸前沖サバロール飯」。吞んだその先では、こうして巻物にしてくれたりすると食べ易くて嬉しいものだけど、それがブランド鯖のものとなれば、なんだか申し訳ない気分さえ憶えます。
もうちょい食べたいかもってことでのもう一品が「階上蕎麦」。八戸の南側、岩手県との県境に位置するのが階上町(はしかみちょう)で、その地で採れた早生蕎麦をつかった蕎麦だという。
寒さに強いために凶作・飢饉から多くのひとびとを救ったという蕎麦は、しなやかな食べ口であります。
月が改まった4月某日に此処の横丁を通りかかると、お昼の品書きに紅い札が添えられているのが目に留まる。
近づくと「八戸前沖サバのヅケ炙り丼定食」5食限定!とある。
早速階段を降りて「限定を!」と声を掛ければ、こんなドンブリと相見える僥倖となる。嗚呼、炙った芳ばしさを添えた八戸前沖鯖の滋味のなんと豊かなる哉。
八丁堀の横丁に青森創作郷土料理の店「大わ山(おおわやま)」がある。夜も気がつけば満席になっていて、じわじわと増やしたファンが定着しているものと推察いたします。
馬刺しや田子産「にんにくの丸揚げ」とか弘前の「俺のイカメンチ」とかの宿題もまだまだある。
「田酒」「豊盃」といった”津軽衆”なお酒に対して、「七力」や「はちつる」といった”南部衆”なお酒も同じように揃ってる。
遠からず、ふらっと寄りたいなぁと思います。
「大わ山」
中央区八丁堀1-8-6 カサイビルB1F [Map] 050-3321-7510