元は芸者の置屋だったという店は、なるほどな風情を今に残す。この路地をさらに進めば、「よし梅 芳町亭」のひっそりとした玄関口に至ります。
おひとりさまは、久し振りのカウンターへ。 何気に頭上を見上げれば、 「江戸消防第一區」と題した横長の板が長押に飾られている。そこには、組ごとに違う町火消しの纏いが標してある。 「よし梅」と町火消しとの関係や如何になぁんて考えつつ、 白木のカウンターを撫でてみます。
厨房のアルミバットには、 きっとあの「ねぎま鍋」にへと仕立てられるのであろう鮪のサクが5本ばかり、 ゴロゴロっと収められて出陣を待っています。
お願いしていた「かきぞうすい」の土鍋がゆっくりと届きました。一人前としてはたっぷりなサイズの土鍋がくつぐつとして、 盛んに湯気を立てている。 忽ち眼鏡が曇りそうにも思います。
こんな沢山で、食べ切れるかなぁとちょっぴり思い乍ら、 蓮華で取り皿によそった景色。一味も山椒もいらない、ただ出汁そのままで炊いた塩梅がいい。 牡蠣の身の味わいもふっくらとして、好ましい。 よそってはハフホフ、よそってはハフハフを繰り返す裡に一心不乱となって(笑)、 気がつけば土鍋ひとつを平らげて。 額には汗が滲んで、ぽかぽかに温まったのでありました。
裏を返して、人形町の路地。 お品書きで気になったもうひとつの冬のメニューをいただきにあがりました。 「かきのてんぷら定食」をお願いすると、 背後から差し出されるのは、天つゆではなく、ポン酢のお皿。 なるほど、天麩羅をいただくというよりは、 天麩羅の衣に包んだ牡蠣をいただくということなのだ。
浅葱を入れ、紅葉おろしを解いたポン酢に揚げ立ての牡蠣の天麩羅。これまたふっくらとした、 でも旨みの活性した牡蠣がしみじみと美味しい。 牡蠣は、広島のものだそうです。
江戸風情の残り香の路地に魚河岸料理「よし梅」がある。 遊里、そして芸妓の花街であった芳町。 その芳町に住んでいた「うめ」さんが昭和二年に創業したのが「よし梅」だそう。 さらに奥まった路地に入口を据えた「よし梅 芳町亭」は、 登録有形文化財に指定されている。 情緒たっぷりの数奇屋造りの一室でいつか「ねぎま鍋」をと、 夢見ているのでございます(笑)。
口 関連記事: 魚河岸料理「よし梅」本店で かき逃すも沁みる帆立雑炊ハフホフ(06年03月)
「よし梅」人形町本店 中央区日本橋人形町1-18-3 [Map] 03-3668-4069
column/03349