
四条通りから臨む先斗町。
赴く度に、古くからの店に代わって妙にコンセプトチックな看板を掲げる店が増殖していることに気づかされてちょっぴり気分が萎える。
どきどきするような、しっとりオトナ情緒の先斗町ではなくなっていくのを寂しく思っているヒトも少なくないだろな。
そうは云っても、情緒だけじゃ店の経営を維持できないのというのもまた本当だろうと複雑な気分になったりもします。
そんな先斗町をずっとずっと進んで、もう三条に近いと思う頃。
右手に歌舞練場の建物が見えてきます。
歌舞練場は、先斗町の芸妓・舞妓さんが踊りや鳴物・唄などを練習する場所で、
「鴨川をどり」の会場としても知られているところ。
そして、その歌舞練場を背にして見上げる雑居ビルの二階が今宵の目的地です。

何度か訪ねるその度に、どうも間が悪くてお休みのことが多かったのだけど、
今夜は店の灯りが点っています。
こんばんはと訪ねると、にっこり迎えてくれる女将さん。
小さな三和土に靴を脱いで、10席ほどの小さなカウンターの隅に腰を降ろします。

酌してくれた壜の麦酒のグラスを傾けながら、
カウンターにずらっと並ぶおばんざいの説明を聞くひと時。

目の前にあったお皿から、
炊いた季節の竹の子と蕨の玉子とじ。

女将さんに、随分と黒っぽいワラビですねー、と訊くと、灰で灰汁とりすると普通に黒くなるンです、妙に鮮やかな色味の蕨は反って怪しいのじゃないかな、と。
へー、そうなんだと頷きつつ、お酒の品書きを眺めます。

背の低い片口からいただくは、京都の地酒、純米「月の桂」。

「小アジの蒲焼き」の二度揚げしました的な鯵は、
蒲焼きといよりは南蛮漬けのようにも見えるけど、
齧ってみると味醂の照りの感じは確かに蒲焼きの風情もして面白い。
そのお皿の鶏は?と女将さんに訊くと、応えは「酢鶏(すどり)」。

なるほど仄かな丸い酸味が脂たっぷりの鶏をさらっとした軽さにしてくれている。
酢で煮込むと柔らかくなるってヤツですね。
そして、「ほっこりや」の店の真ん中にでんと構えるのが、おでんの鍋。
そうですね、「大根」に「ひろうす」に「平天」をいただきましょう。

出汁のしっかり沁みた大根をほふほふとしては、地のお酒をキュイと呑る。
あぁ、いい(笑)。
がんもどきに滲みた出汁も薩摩揚げに温める出汁も乙なもんだとひとりごちては、
またまたお猪口を空にするのであります。
先斗町の外れで待ってくれている女将さんのお店「ほっこりや」。
ほかほかと暖かくふくよかで、つやよく、ほっとさせてくれる。
初めて訪れても、なんだか常連の店のような気分にもさせてくれるのは、
まさに女将さんの心意気と気遣いの賜物。
普段着のおばんざいがいただけるお店として、変わらずにいてほしいな。
「ほっこりや」
京都市中京区先斗町通三条下ル2材木町179 ニュートーヨー会館2F
[Map]
075-213-2250
column/03138
失礼いたします。
「歌舞練習場」と書かれておられますが、
「歌舞練場」と書いて「かぶれんじょう」と読みます。
ご参考まで。
Re:piyoさま
ああ、またやってしまいました(汗)。
しっかり写真にもそう映っているのにぃ。
早速、修正しました。ありがとうございます。