
旧市街からザルツァッハ川に沿うように北へちょっと行った辺り。
Müllner Hauptstraßeが、Lindhofstraßeへと左に大きく弧を描く交差点。
行き交うトロリーバスの向こうに眺める何気ないベージュの建物がこの日のランチの目的地。
壁に縦書きした看板が茜色に白抜いて示す店の名は、「esszimmer.」。
ドアを押し、店の中に一歩足を踏み入れると、
外観の愛想からの予想を裏切る、シンプルに洗練されたフロア。


目の前を走るトロリーバスのパンダグラフが架線を擦る音もなく、静かで穏やかな雰囲気だ。
まずは、仄かなピンクが綺麗なシルヒャーの泡から。
「MENU ESSZIMMER」から、前菜のみっつのカップ。


意外と濃い味仕立ての雉子のコンソメと人参ペーストに載せた帆立、鹿のタルタル。
長方形に切り出したような黒い石のプレートに載せられてやってきたのは、鮪のマリネ。

その下に敷いているのは、saddle of veal。
子牛の鞍のあたりの部位の肉のことだそう。
日頃食べ慣れた鮪の赤身は、こちらではちょっとキッチュな食材なのかもなぁと思ったり。
酢漬けした赤キャベツと一緒にトッピングされているのは、ビーツの甘いチップスだ。

「esszimmer.」のメニューの特徴は、お皿それぞれに対してオススメのグラスを用意してくれること。
そんな鮪のマリネと子牛とのプレートには、
「Weissburgunder Klassik 2009,Gross,Südsteiemark」。

垂らしたオリーブオイルに岩塩の欠片を載せて齧るバゲットと交互に愉しみます。
微かに翠色がかった泡ソースに包まれてやってきたのは、柔らかな魚の白身。
大鮃(オヒョウHalibut)というカレイの仲間だそう。



紅い彩りを添えてくれているのは、ビーツの根っこ。
そして、エスプーマちっくなソースを仄かな緑色にしているのが、Wasabi。
ホースラディッシュなどでなく、山葵であることが嬉しくもなんだかちょっとこそばゆい。
これなんだろね?と思うムースというかパテというかは、グリューワインの入ったマグロの。

これが、おりょりょと思うほど旨くてびっくり。
買って帰りたい感じ(笑)。
続くお皿は、子牛の膵臓sweetbread。

こちらも主題であるかのように表情を魅せているのが、薄切りした林檎で挟んだ菊芋(エルサレムアーティチョーク)のムースだ。
メインのメニューにふたたび目にしたのが、”Saddle”の文字。


子牛の鞍のあたりの部位のお肉の柔らかグリルがロール状にして中央に。
癖のない真っ直ぐな旨味が溢れ出るように口腔に広がって。
それと並んでロール状なのが、オーストリアの代表的なスイーツのひとつ、シュトルーデルstrudelをモチーフにした料理。
くるくるしてサクカリの衣とそれで包んだソテーとの相性やよし。
お供は、「Roter Veltliner -alte reben 2008」の赤だ。
デザートをあれこれ盛り込んでくれたお皿には、
ちょっとビターなものやキャラメル風味のものなどなど。


仕上げに一杯いかがですかと、透明ボトルにキルシュguglhof wildkirsch。
舐めるようにいただいても、利いてしまうのですね(笑)。
新しい工夫への気概と気鋭を想うレストラン、「esszimmer.(エスツィンマー)」。

“ess(essen)”=”食べる”+”zimmer”=”部屋”で、”esszimmer”。
シェフのアンドレアスが用意するメニューの、例えば「MENU GREEN」にはこだわり野菜の5皿があったりする。
きっと季節を変えては訪れる常連さんも多いことでしょう。
音楽祭の時季には予約も難しくなるようです。
「esszimmer.」
müllner hautpstr. 33, Salzburg
[Map] 0 662 / 87 08 99
http://www.esszimmer.com/
column/03120