“九州”と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、
かつて一度は訪れたいと思い続けて、願い叶って潜入した屋台連なる博多・長浜のあの光景。
そして、中州へと渡る春吉橋近くの豚骨の匂い。
博多のそれとは結構違うのだなぁと感慨深かった久留米のらーめん店。
熊本では、「桂花」の本店や「こむらさき」にわざわざ足を運んだっけ。
あれ?ラーメンに纏わる想い出しかないのかいなと苦笑いしながら向かったのは、ミッドタウンもほど近い六本木の裏通り。
ラーメンのみならず、九州の食材あれこれを取り寄せて、愉しませてくれるという「ちかっぱ」六本木にお邪魔しました。
8名収容のスペースを強引にふたつに区切った、
フロア最奥の個室が不思議なこじんまり。
口開きの麦酒は、一番搾りもあるけれど、
やっぱりこれでしょと「長崎ビール恋のオランダ坂」(笑)。
長崎の大島醸造という地場メーカーが醸す地ビールは、
デュンケルタイプでしょうか。
すっきりとした香ばしさには、地ビールらしからぬ奥行きがあります。
まずのお通し的器は、「炙り鶏皮のゆずマリネ」。
ベビーリーフなんぞに隠れているのが、鶏皮をカリっと素揚げ状にしたもの。
九州の居酒屋では定番だという「皮酢」から派生させた酒肴だ。
なるほど、柚子風味の酸味がよく似合う。
できれば、もっとたっぷし鶏皮が欲しいな(笑)。
おおっと目を惹いたのが、熊本産「赤牛のレバー刺し」の紅。
「草牛」とも呼ばれる「赤牛」は、阿蘇の大草原で牧草を食み、
悠々と育つ熊本の伝統和牛だそう。
みるからに鮮度の良さそうなのが、九州に特化したお取り寄せ手腕の見せ所。
ひたひたと張り付くように艶めかしく、それがすっきりと臭みない滋味に至る。
おろし生姜も大蒜も使わず、塩胡麻油だけでいくのがいいかもしれません。
九州お取り寄せ「ちかっぱ」の、
これもひとつのウリなのだろうなと思わせたのが、「旬野菜のまるかじり」。
九州直送だという野菜たちは、例えば、
大根的歯応えの福岡産赤瓜や熊本の赤茄子肥後むらさき、
赤オクラに島オクラ。
対馬の藻塩をちょんづけして、パキパキとシャクシャクと。
縦に裂いてひょろっと長い甘辛ピーマンは、
獅子唐よろしく”当たり”に当たるとなかなかに辛い。
でもその先にその名の通り、甘さを含んでいるのが面白い。
またまた艶々したテクスチャがやってきた。
あ、あの白いのはきっとタテガミに違いない。
ってことは、お馬さんの刺身ってことになるね。
訊けば、これまた阿蘇は産山(うぶやま)という村から、
チルド輸送で持ち込んだ「馬刺し」だそう。
紅白のツートンになっているのが「ふたごえ」と呼ぶ部位で、
馬のあばら肉あたりを指すらしい。
どれがといえば、「赤身」が旨い。
融点の低い脂がつるつるとした独特の口触り。
やや甘めの九州醤油でいただけば、
その脂の向こうにある赤身肉の澄んだ旨みが、
大脳皮質に真っ直ぐ伝わってくる感じ(笑)。
九州お取り寄せとあらば、
焼酎のラインナップも期待に違わぬものでしょうと訊ねると、
メニューのリストは意外や、その辺りはまだまだこれからという模様。
そんな中から面白そうと選んだのが、
シェリー樽フィニッシュだという「樽いきいき」。
球磨の米焼酎に仄かにシェリーの香りをつけた、
どちらかというと上品な仕立ての呑み口だ。
熊本に負けちゃぁおれんと(笑)、登場したのが大分名物の「とり天」。
どうも鶏の天ぷらというと、
うどんのトッピングのかしわ天、というイメージなンだけど、
大分ではこの「とり天」がめちゃめちゃスタンダードなお惣菜らしい。
カボス醤油でイクのが大分の本場スタイルなのです、
ということで揚げ立てをちょっと浸してハフハフすればもう、
不味かろうはずもないところ。
同じ大分特産のカボスを使った辛味調味料に「KABOSCOかぼすこ」なんてシャレたネーミングのものもあって、これがなかなかヒリヒリのチリ。
チリなカボス醤油でヤル「とり天」もまた乙なもの。
そういや戸越銀座で人気の唐揚げ屋さんは確か、「大分唐揚げ」。
さしずめ、大分の鶏の揚げモノ兄弟、といったところでしょうか。
恭しく運ばれてきたのが、アゴを浮かべた打ち出しの鍋。
いまかいまかとその湯殿への投入を待っているのが、
これまた熊本産のプレミアムポーク「肥皇(ひおう)豚」。
ハナビラタケや空芯菜、ふりふりレタスなんかと一緒に、
出汁タレに浸していただくスタイル。
脂の甘さが呼ぶ旨みを素直に愉しめる、そんな鍋であります。
と、もういっちょとばかりに別の鍋がやってくる。
今度の鍋の中はすっかりと白濁して、如何にも”博多な”風情(笑)。
でもそこに浮かんでいるのは忽ちラーメンではなくて、餃子かワンタンか。
これがどうやら、このところ福岡の一部で人気沸騰中だという「炊き餃子」。
博多の屋台ではラーメンを焼いてしまったり、餃子を炊いてしまったりとイタズラ心が生みの親のような料理が輩出してきて面白い。
餃子を浮かべて炊いている白濁スープは、
豚骨一本やりかと思ったらそうではなくて、
はかた地鶏のガラをじっくり煮込んだスープがベースで、
豚骨は一割程度なのだという。
しっかりとボリューム感のある餃子をべったりした豚骨スープでやっつけるのは流石にちょっとというところかな。
なるほど鶏出汁の、見た目の濃厚さをほどよく裏切る、
さらっとしたコク味スープだ。
タピオカ入りもっちり皮の餃子を平らげたら、
然るべくやってくるのが”博多な”細ストレート麺。
硬めに下茹でした麺を鍋のスープにささっと潜らすようにして、
スープと一緒に取り鉢によそり、浅葱をちらして啜る。
ズ、ズズズズ。
うむむ、キメキメだった塩っ気が煮詰まってきちゃったかもねと割スープ。
ふむふむ、あとはすぐ軟くなってしまう繊細な細麺を好みの硬さのまま上手にいただくため、一心に啜るだけです(笑)。
新宿・銀座に引き続き、六本木にも登場した”九州お取り寄せ”の店「ちかっぱ」。
大宰府名物の梅ヶ枝餅の温かいところを頬張りながら、鶏皮の歯触りや赤牛レバーの艶めかしさ、野菜を齧る妙音、馬刺し赤身の旨み、とり天の素朴な滋味、肥皇豚の甘さなんかを振り返る。
さしずめ、うまかもんを辿る、九州喰い道楽ぷち旅行、だね。
「ちかっぱ」六本木
港区六本木4-6-7 六本木4丁目ビルB1
[Map] 03-5775-6571
http://www.chikappa.co.jp/
column/03029
ちかっぱ 六本木
九州の食材を使用した郷土料理を提供する店、「ちかっぱ」。新宿、銀座に続いて、8/…