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中華「王ちゃん」でチャーシューメン野菜そば上カツ丼人気振りを示す千切れた暖簾に

新大橋通り沿いの桜川公園と入船一丁目信号との間の、現在はPMO八丁堀Ⅳが建っている場所に、STAND SUSHI BAR「伊藤家のつぼ」は、あった。
およそ20年弱前に一度お邪魔したことがあって、その後何度も寄りたいと思うも、いつも予約で満席だった。
その後、真鶴の旧料理旅館を買い取って、あれこれ手を入れて、泊まれる鮨屋として営業開始したのが確か、2018年初頭の頃。
以来、引き続き困難な予約の壁を搔い潜って、
これまでに4度程、真鶴を訪ねている。

で、予約が取れたこの春先のこと。
真鶴駅近くの荒井城址公園の桜でも拝もうと、
早めの時間から愛車を駆って真鶴へ向かう。
渋滞もなく順調に真鶴付近まで走れたので、
おひる処を目指して真鶴街道を直進、
湯河原までやってきた。

温泉宿が立ち並ぶ千歳川に沿って進み、
左折した落合橋の先の急坂を登る。
この先に飲食店があるとは思えない、
そんな裏道をさらに往く。 今にも引き返そうとした辺りの長屋の隅に、
ボロボロに千切れた暖簾が見付かりました。

「ちゃん」の文字は判読できるものの、
「王」の部分は知っているからそう読める。 右側には縦に「中華」の文字。
左側に何か表示があったのかどうかは、
欠落していて最早判らない。
うん、いいね、堪らない味がある(^^)。

カウンターに空席ができ、
親父さんの合図を待っていざ店内へ。
両手を消毒液に濡らしてから、
冷蔵庫から冷水のボトルを取り出し、
所定のグラスに注ぐのが、入店時のお約束。 左を手前に右側を奥にと斜めに置いた、
そんな配置のカウンターの付け台。
料理たちの器は皆、
ここに置かれることになる。

手許を見れば、角が捲れ上がり、
元の赤からすっかり色の掠れた、
メラミン化粧板のカウンタートップ。 その下の丸椅子の座面も、
調色したかのように同じピンク色だ。

カウンターに座った背中側には、
小上がりに座卓がひとつ。 その奥の板壁に筆書きのお品書き。
上段にラーメンや焼きそばなどの麺類が載り、
下段にはカツ丼、オムライスから炒飯まで。

確かめた訳ではないけれど、
老いらくの親父さんが、
王ちゃんその人であろうことは、
疑っても詮ないので勝手に、
親父さんを「王(ワン)ちゃん」と呼ぶことにする。

王ちゃんは、
包んでいた布巾から麺を掴み上げて、
ふつふつと沸いている寸胴鍋に落とし入れる。 麺上げは当然のように平笊であり、
その何気ない無駄なき所作に思わず頷く。

付け台に並べたどんぶりふたつ。
「野菜そば」の器にあんをかけ注ぎ、
「チャーシューメン」のチャーシューを載せる。 そうして、ふたつの註文の品が、
ほぼ同時に出来上がる。

「チャーシューメン」の麗しき雄姿。 飾り気なんて勿論ないけれど、
トッピングの焼き豚はどんぶりに載せる都度、
肉塊から切り出してくれるもの。
スープにひたひた浸していただけば、
うんうん、期待通りに美味しいヤツだ。

スープは、旨い屋台のそれを思い起させる、
往時からの基本形が齎す素朴にして安定の味。 そんなスープに、やや細めの手もみ麺が、
こうでなくちゃとばかりによく似合います。

相棒註文の「野菜そば」の佇まいや、よし。 このあんが醤油仕立てになったら、
メニューに並ぶ「サンマーメン」になるのかな?

晩夏の或る日。
この年二度目の「伊藤家のつぼ」の夕餉を堪能した、
その翌日にふたたび湯河原の千歳川沿いを遡上した。

勝手知ったる落合橋の先の急坂を登る。
ほんの少し懐かしささえ抱いてしまう、
「王ちゃん」の暖簾の前に立つ。 あれあれ?
ボロボロに千切れていた暖簾が更に千切れて、
「王」の部分さえ一画目の横棒を残して、
ほぼなくなってしまってるじゃん。
「ち」の文字も最早判読できないぞ(^^)。

例によって、
王ちゃんの店内からの手招きを待って、
カウンターの一隅に腰掛ける。 小上がりの板壁を振り返るように見ると、
横幕状の用紙に書かれていた品書きが、
短冊に切り替えられている。
品数もずっと絞っているみたいだ。

ここへふたたびやってきたのは、
過日カウンターのお隣さんが食べていた、
カツ丼がとても気になっていたから(^^)。
なので早速、「上カツ丼」をお願いします。

あいよとばかりに応じてくれた王ちゃんは、
冷蔵庫から肉塊を取り出して、
数量分の肉片に切り分ける。 俎板の上の肉塊の形状なぞからそれは、
ヒレ肉であると思われる。
視線を少し右にずらすと、ガス炊きの炊飯器。
これもまたなんだかいい景色です。

衣を纏ったカツを油に入れた王ちゃんは、
お新香をタッパーから小皿に移す。 あらかじめお新香を盛った小皿を、
幾つも用意して置いておく、
なんてことをしないのもきっと、
王ちゃんのちょっとした拘りに違いない。

少し甘い匂いと一緒に、
「上カツ丼」が付け台に置かれた。 玉子たっぷりのだくだくでは、ない。
玉子でとじるところで攻めないのが、
王ちゃん流であるに違いない。

細かいパン粉で包んだカツと、
それを浸したであろうタレの甘さが、
なにやら郷愁を誘うような美味しさのする。 そんな覚えなんか特段ないのに、
子供の頃に食べて絶品だったあのカツ。
そんな感慨が沸き起こるのです。
あゝ、王ちゃん、ご馳走さまです!

湯河原は千歳川右岸の高台の、
住宅地のずいっと奥の裏道に、
中華「王ちゃん」は、ある。 奥さまにはお目にかかれなかったけれど、
湯河原温泉公式観光サイト には、
ベテラン老夫婦が営む「王ちゃん」は、
地元では知らない人はいないほどの有名店、
とあって、ご夫婦で切り盛りされている様子が、
不思議にもなんとなく想像できる。
沢山のひとが潜り払った暖簾がその時、
更にどう千切れてしまっているかも関心がある。
おそらくロース肉であろうところの「カツ丼」や、
これまた気になる「生姜焼き」をいただきに、
またの機会のあらんことを(^^)。

「王ちゃん」
静岡県熱海市泉39 [Map]

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