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一凛の離れ「イチリンハナレ」でよだれ鶏牡丹海老石庫門鱶鰭張飛扇ガ谷路地の邸宅

築地警察署の近くにある東京チャイニーズ「一凛」。
なんだか妙に気になって、開店早々から何度かお邪魔したのが2013年のことなので、かれもれもう10年以上も前のことになる。
辛いモノが苦手な自分にとって、よだれ鶏に四川系を思うも、辛さに刺激を求めず、そことは別の美味しさのある世界を教えてくれたお店として、今もなお印象的なのです。

案の定、「一凛」は人気の店となり、
いつ覗いても行列のためハードルが上がって、
ふらっとランチに寄れるお店ではなくなっていましたが、
2017年には、シェフが鎌倉に新しい店を出すと知り、
そちらにもいつかゆっくり訪ねたいと、そう思っていました。

「イチリンハナレ」に初めてお邪魔したのが、
この年の1月の末日。
およそ裏を返すように、
花曇りの春の日にふたたび訪れました。

北鎌倉の駅で待ち合わせてまずは、
駅前とも云える円覚寺を訪れると、
例年とは異なってやっと開いた染井吉野が迎える。 そのまま南下して建長寺へ。
ちょうど通りかかかった晴れ着姿のカップルをふたり借りて、
三門前の桜並木の景観を愉しんで。

建長寺から少し戻って、
亀ヶ谷坂切通をえっちらおっちら登り降りして、
扇ガ谷の住宅地に潜り込む。
その先へ登り行けば行き止まりの道をさらに、
狭い路地へと右折する。
こんな処に飲食店があるのだろうかと訝りつつ往けば、
「イチリンハナレ」の門と暖簾が見付かります。

暖簾を潜り、料亭のそれのような格子戸に迎えられる。
政財界や作家の著名人が過去、
湘南地方に幾つも設けられたと聞く、
別荘のひとつにでもお邪魔したような気分のまま廊下を進む。 案内されたカウンターからは、
硝子戸越しに庭先の草木が臨め、
ゆったりとした心持ちにさせてくれます。

口開きは、アオリイカ。 稲庭うどんを思わせるような細切りした障泥烏賊。
半透明の乳白色が舌の上で艶めかしい。
ペアリングは、熊本は玉名の花乃香酒造の産土(うぶすな)。
口開きに相応しいフレッシュさが、いい。

次のペアリングに用意されたのが、
上海老酒「石庫門」の金銹12年。
風格ある佇まいのボトルが、
一般的な黄酒・紹興酒とは一線を画す。
味わいもまたマイルドで呑みやすく、香り高い。 牡丹海老を漬け込んだであろうソースも、
そんな老酒の延長線上にあるものだ。

そして、定番の器がやってくる。 丹波高坂地鶏の、ご存じよだれ鶏だ。

辛いものが苦手な我々にとっては、
辛味が刺激ではなく、風味に作用していて、
とろんとした旨味を感じさせるこのタレが、
やっぱり、いい。 そのタレの残りでまずは、
カリっと焼かれた肉々しい餃子。
ひと房だけというのも、なんともいい(^^)。
全粒紛を思わせる麺の投入は、
勿論のお約束だ。

お次のグラスは、球状に丸いチューリップ。
注がれたボトルは、Gravner Ribolla(リボッラ) 2014。
白ワインの括りも、所謂”白醸し”で、
オレンジワインの系統と思ってもよいのかもしれません。 ペアリングのお相手は、ふかひれ、だ。

大きくない、加減のいいサイズの土鍋に浮かぶ鱶鰭。
それ自体の味わいに乏しく、どことなく所在ない感じ。
そんなフカヒレに出会うことが少なくないけれど、
この鱶鰭は、焼き目が香ばしく、
スープの旨味との一体感が、なかなかに素晴らしい。 鱶鰭の残り香と旨味の詰まったスープには、
ご飯を投入して、残すことなく平らげるのであります。

今年は豊漁と聞く、桜海老、と題されたメニューは、
その下にホワイトアスパラガスの揚げ物を従えて。 ホワイトアスパラガスと云えば、
思い出すのは墺太利のそれ。
そう思っていたらなんと、
ペアリングの白ワインは、
大好きな種のグリューナーヴェルトリナー。
しっかり太いアスパラガスに産地を問うと、
それは、フランス産とのことでありました(^^)。

続くお題は、張飛牛肉(チャンフェイニウロウ)。 四川の名物料理のひとつのようで、
“張飛”は、三国志に登場する張飛にちなんだものだそう。
張飛は赤黒い顔で、怒ると真っ赤になる御仁だったところから。
牛の内腿を低温調理したもので、
妖艶なる中華風ローストビーフ、
と云えば、伝わるでしょうか。

続いて届いた蒸篭は、その名も、香港飯。
残念ながら香港は未だ訪ねたことがなくて、
果たして香港当地には、
香港飯と呼ばれるメシがあるのかないのか判らない。 そんなことはさて置いて、
その蒸篭でご飯を包んでいるのは蓮の葉か。
中の炊き込みご飯には、
蛸や帆立が刻まれていて高菜たっぷり。
じんわり旨い。

そして、満腹のお腹を摩りながら、
ゆったりと踊る茶葉のお茶をゆったりといただく。 ココナッツ団子と茶菓子で大団円だ。

鎌倉は扇ガ谷の住宅地、行き止まりの路地に、
一凛の離れ「イチリンハナレ」は、ある。 ここでの世界観はきっと、
料理長 齋藤 宏文氏なればこその感性と手腕のなせる業。
この料亭のような建物は元々、
フランス人の外交官の邸宅だったものだそうだけれど、
この建物に住まおうとする、
日本人以上に和で雅なそのフランス人外交官の感性もまた、
素敵なものだったのだろうなと思っています(^^)。

「イチリンハナレ」
神奈川県鎌倉市扇ガ谷2-17-6 [Map]
0467-84-7530
https://whaves.co.jp/ichirinhanare/

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