その施設内にあったのが、
手打ちうどんの「むさしのエン座」。
ちょっとしたテラスなんかもある真新しい建物で、
店主自らが”その日のうどんの出来”を点数で示して、
気概をもって饂飩打ちに勤しんでいるらしいと、
いそいそと足を運んだことを思い出します。
ただ、三宝寺池前近くのその場所は、
石神井公園駅から徒歩15分程と、
決して足廻りの良い立地ではありませんでした。
今はただ「エン座」と名乗っている加藤さんのお店が、
元々あったのが、富士街道沿いの西村バス停近く。
石神井公園へ移転した跡を譲り受けて営業していたのが、
「エン座長谷川」。
その「エン座長谷川」が、
大泉学園駅からも至近な場所に移転していると知り、
再びいそいそと足を運びました(笑)。
どんな経緯を経たのか、
今はその名を「長谷川」と換えているようです。
駅の北口に降りて左手に進み、南口とを繋ぐアンダーパスの上を渡り、
その先の路地にくにゅっと入り込む。
すると、空席待ちと思しき数人のひと影が目に留まる。大泉に移転してもなかなかの人気があるようです。
温かな笑顔と朗らかな声に迎えられ、
右手に突き出した壁向きコの字のカウンターの隅へと落ち着きます。
パウチに挟んだメニューを捲りつつ、ご注文は決まっていますの「糧うどん」。
「糧汁肉」を増すトッピングを添えてもらいましょう。
注文が厨房に通ると早速うどんが湯殿に投入されて、それ相応の時間の待機。15分程待ったでしょうか、「糧うどん」のお膳がやってきました。
ぐいっと最後に捻る所作が想像できるよな盛り付け具合。力強いエッジとうねり、そして以前と同じ藤色したうどんの一本も捻り込まれています。
濁りなき糧汁には、豚や牛蒡に小松菜、白髪葱を添えたもの。嫌味なく出汁の利いた優しい汁になっている。
この温かなつけ汁にうどんをつけて食べるのが、
「武蔵野うどんの食べ方」だと品書きにある。云われた通り、つけ汁に浸して持ち上げたうどんには、処々に褐色の点々が見つかる。
それは、地粉のふすま(小麦粉の表皮部分)をうどん生地に含んでいるからだ。
「長谷川」のうどんは、香川県の木下製粉の”白バラ”と、
新座産の地粉”農林61号”の全粒粉をブレンドして使用しているという。
つまりは、農林61号の表皮が麺に混じり込んでいるってことになる。
ズルっと啜るうどんは、武蔵野うどん的農林61号の才気煥発という方向ではなく、
讃岐系の粉をブレンドすることで、
如何にも地粉の風味と麺のコシとのバランスをとったものに映る。
新座でもまだ農林61号を生産してくれている農家があるのだねと考えながら、
量感たっぷりの麺をぺろっと美味しくいただきました。
冷え込んだ冬のある日には、
入口近くのテーブル席に陣取って、温かいうどんを所望したい。
冷たい両の手を擦りながら、そんな気分でお品書きから選んだのが、
温かい「焼豚うどん」です。
たっぷりと盛った長葱に浅葱、晒した針生姜。その向こうに通りの明かりが覗きます。
どんぶりの汁は、讃岐うどんを思わせるような澄んだもの。期待通りに出汁風味しっかりとして後味に鰹が香ります。
自家製という、柔らかで燻製の風味程よい焼豚と交互に啜る麺。ふすまの粒々は健在で、
成る程、ブリブリの讃岐うどんとはまた違う顔を見せてくれます。
大泉学園に移転してなお、英気盛んな手打饂飩「長谷川」。農林61号系の地粉を用いずして、
「肉汁」を代表とする「つけつゆ」によって食べる流儀でもって”武蔵野うどん”と謳う、
所沢のうどん処「槙家」のような事例もある中で、
讃岐系の粉とのブレンドながらも、
地場産の農林61号系の地粉にも拘る姿勢に敬意を払いたい。
そうそう、ふるさと文化村に移転する前の「エン座」は、
富士街道沿いにあったことを思い出しました。
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「長谷川」
練馬区東大泉4-3-18-102 [Map] 03-3922-2626