おでん・たいやき「にしみや商店」で 出汁の無垢な正しさ天然物鯛焼

nishimiya新富町の裏通り。
北風吹き抜ける寒い日も、
炎天に汗の滲む真夏の日にも。
からっとした空気が心地いい五月晴れの下でも、
颱風の余波で風雲急を告げる空の下でも。
「おでん」と染め抜いた暖簾と、
「たいやき」と記した暖簾とを庇に下げて、
今日も営む商店があります。

斜向かいの喫茶「バロン」の窓辺から見下ろす「にしみや商店」。nishimiya01角にはカーテンが閉まったままの食堂「かどや」のスタンド看板もちらっとみえます。

小昼時分には、買いに来た女性陣で行列が出来ることもある。nishimiya02その前を通る度にちょっと暖簾に近づいて、
出汁のいい匂いを嗅いだりなんかしていても、
一度テイクアウトしたことがあったっきり、
気になりつつもそのままになっていました。

それは、テイクアウトじゃなくて、
そこで食べたい!という気分が募っていた所為もある。
いつかそうしようと思いつつ刻々と時は過ぎていってしまっていたのでありました。

そんなこんなの幾星霜(笑)。
と或る初秋の日の夕暮れ時に意を決して、暖簾を払う。
「ここで食べて行きたいんですけど、おでん、いいですか」。nishimiya03一瞬「んん」っという表情をされたご主人が、
それならどうぞとスチールの丸椅子を出してくれる。

女将さんがおでん鍋の木の蓋を外すと、
湯気とともに出汁のいい匂いが立ち昇る。nishimiya04ええっと、大根に玉子に昆布、つみれに、えっと、烏賊下足がいいな。
はいよってな感じで熱々の種をお皿に盛り、汁を注ぎ足してくれる。

サッシュ枠の下にぶっつけるように据えられた、
細いカウンター前の丸椅子に腰掛けて、おでんのお皿を受け取って。
小瓶から練り芥子をお皿の脇へと擦り付けます。nishimiya05ふと振り返れば、「バロン」の窓際を望めます。

まずはやっぱり大根から。nishimiya06ああ、煮崩れずしてすっと箸の先で切れる大根とそこに滲みた出汁。
阿ることも飾ることも、勿論誤魔化すこともない実直さを思ったりする。
コンビニのおでんでは決して顕せない、無垢な正しさが宿っているような。
ただ、出汁の材料はちょっと奢っているかもしれません。

別の夕暮れときには、竹輪麩に、巾着などを盛ってもらう。nishimiya07うーんやっぱり出汁が美味い。
邪念過ぎることなく、ただただおいしい感じが佳い。
烏賊下足から滲む油少々もそっと旨さを呷ります。

またまた別の夕方には、串刺しの馬鈴薯あたりもお願いしてみる。nishimiya08でも、やっぱり王道の大根は外せないよね(笑)。

そして、おでんを食べ始める辺りでいつもおにぎりをひとつ所望する。nishimiya09サッシュに留めた厚紙に書かれてある通り、
おにぎりは「しゃけ」「たらこ」「うめ」「おかか」「しそのみ」の5種類各100円也。
お願いするとご主人が、店奥のおにぎりコーナーに入って結んでくれる。
手に塩する様子が想像される、塩のよく利いたおむすびをおでんと交互にいただけば、
なんだか益々癒されるような、そんな気分になるのです。

そしてそして、おにぎりを食べ終わったところで、発する声は、
たいやきひとつ、お願いします。nishimiya10「にしみや商店」の鯛焼きは、俗に云う”天然物”。
行列でも有名な人形町「柳屋」と同じように、一匹づつの型で焼く。
頭からえい!っと齧ると、薄く均質な絶妙な皮がパリッとして、
中から甘さを控えつつ小豆の風味がどっと攻めるつぶあんが顔を出す。
そのあんは勿論、しっぽの先の方までびっしりと詰まってる。
塩っ気が柔らかな甘さを引き立てている感じがいい。

時間帯的に毎度毎度という訳にはいかないけれど、
タイミングよく焼き立てにありつけた日には、
その美味しさが倍加する。
正直なところ、「柳屋」のそれよりも好みなんだなぁ。

新富町に残る昭和のひとつ「にしみや商店」。nishimiya11おでん、鯛焼き、そしておにぎりに、
ご主人の職人的拘りが魅力として宿ってる。
出来れば、近所の酒屋で扱っているカップ酒「新富座」あたりを持ち込んで、
ここの丸椅子でおでんで吞りたいと妄想しています(笑)。

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「にしみや商店」
中央区新富1-10-6 [Map] 03-3551-1638

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