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おはし処「矢乃」
梅新東交叉点近く。曽根崎通りから老松通り方向へ折れ入った路地の一辺にあるのがおはし処「矢乃」です。硝子越しに窺う店内は、カウンターのみの小奇麗な和食店といった様子。早速ジョッキをいただいて、ホワイトボードの手書きメニューを凝視しました。「新さんま塩焼き」から「水茄子」まで魚介を中心とした16行の酒肴が並んでいます。まずは、まぐろ子と朱書きされていた「よこわたたき」をいただきましょう。本鮪の幼魚を“よこわ”と呼ぶそうで、マグロらしからぬ薄い皮目を炙って若干火を入れた切り身の断面は、鰹のそれのような風情だ。浅葱や茗荷と一緒に口運べば、あの鰹独特の香りはないものの、これまた鰹にも近い食味で、鮪の幼魚鮪の幼魚と諳んじるとなるほどそんな味わいが残るという不思議な一品だ。「よこわ」、覚えておきましょう。月桂冠のお銚子をいただいて今度は、淡路の「たちうお塩焼き」を。蛋白そうな表情のくせに、口に含めばギュッとした旨味を滲ませてくる。さらに続けて、「活うおぜ煮付」を注文んでみた。“うおぜ”は、エボダイのことで、瀬戸内ではシズと呼ばれているらしい。マナガツオの近縁だと云いながら見せてもらった“うおぜ”は、なるほど菱形を連想させるフォルムにマナガツオに似た気配がある。ふんわりとして繊細な身が意外と上品だ。同席の日本酒が似合うおふたりは、どうやらそろって「ふなずし」は苦手らしく、発酵系も嫌いじゃないのですとお願いしたら厭な顔をされちゃった(笑)。やっぱり少々塩辛いものの、酸味も臭みもほんのりとしていて、これこそお酒が進んじゃう肴だと思うんだけどなぁ。えーっと、「よこわ」に「うおぜ」。いつもと違う土地で出会う魚介の名前もまた、ちょっとした旅情のひとつですね。
「矢乃」 大阪市北区西天満4-11-8武智老松ビル1F 06-6364-4788