一階で魚介を買い込んで二階で調理してもらうというスタイルを愉しんだ公設市場を後にして、辺りを散策します。
突撃したいと思っていた山羊料理の店「さかえ」はどんな顔をしているのだろうと妖しい小路に忍び込む。
潜ったゲートが示す名は、「竜宮通り社交街」。
ああ、なんとも素敵な風情だねぇと「さかえ」の外観を眺めつつ、スナックの看板が両脇に並ぶ通りを奥へと抜ける。
合流したオリオン通りから桜坂通りへ。
裏路地に面した店々の表情を含め、この界隈の雰囲気はまさにディープな怪しさに満ちていて、いい。
そんな中でも特に目を惹いたのが、Bar「エロス」。
壁の赤いネオンが強烈に誘う。
その並びには高さも幅もペイントの色も違う3つの扉がある。
一体どこから入ればいいのだろう?と戸惑っていたら、意外にも向かって左手の一番背の低い扉が中から開いた。
中から出てきた兄さんに、僕らもお邪魔できます?と壁の中を指差すと、ニカっと笑ったその兄さん、どうぞどうぞぜひぜひと扉を開けてくれた。
腰を屈めて潜った扉の向こうもネオンと同じ赤いトーンの照明が照らす。
風俗店チックな妖しさに包まれて、これでとっくにとうの立った姐さんが「いらっしゃ~い」かなんか云いながら出てきたらどうしようかとそんな想いがほんの一瞬脳裡を掠めるけれど、すぐさまそんな心配のないことを知り安堵する。
先客さんたちが並んでいるカウンター越しに人数を告げると、渋い表情のマスターがそちらのボックス席へと指先を向けてくれた。
板張りのボックス席を裸電球が照らしていて、壁天井一面に訪れたひと達の名刺が囲んでいます。
ハッピーなひと時を愉しむ常連さんたちの背中が実にいい。
前後ろに被った赤いキャップに見つけた「エロス」の文字が羨ましい(笑)。
「エロス」のオリジナルブレンドだという、「桜坂の夜」と名付けた泡盛を水割りでいただきました。
大音量で流れているのは、ユーミンに松田聖子に八神純子、BILLY JOELにBON JOVI 、もんた&ブラザーズにゴダイゴ、チューリップ、QUEENにEAGLES、久保田早紀に山口百恵と洋楽邦楽、硬軟入り混じった乙な選曲の70年代中心の楽曲たち。
鳴りのいいスピーカーで改めて聴くと、懐かしい曲たちの襞がビビッドに響いてきて妙に心地いい。
次は誰の曲だろう、その次は誰の唄だろうと口遊みながら待つうちにあっという間に時が過ぎてゆく。
繰り出す選曲のセンスと機微、そして同時代の共鳴が不思議な充足で包み込んでくれるようだ。
いいなぁ。
ディープな界隈、桜坂の夜にご機嫌なBarのネオンが誘う、その名も「エロス」。
ふたたび木戸を潜って外に出て、まだ残る暑気の中に佇んで、味のあるファサードを眺め愉しむ。
壁に貼られた大小幾つもプレートの中に、撮影もしくはフラッシュを禁ずるものを見つけてしまったのだけど、どうかお許しください。だって、日記に綴っておかなければおれない、ひと時だったンですもの。
「エロス」
那覇市牧志3-8-32
[Map] 098-869-2160
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