column/02914
restaurant「Quintessence」で本質を素直に表現するお皿たち
確か二年前の秋口の頃。
夕方に「カンテサンスです、キャンセルが出たのですが、いらっしゃいますか」と連絡があった。
キャンセル待ちを入れていた事を失念していてハッとなったものの、タイミングを前後して別の予定を入れてしまっていて、已むなくお断りしたことを思い出す。
その後ますます予約困難なレストランとなったと聞き、そんなアプローチをすることもなく過ごしていました。
そこへ、個室を予約してあるそうなのでご一緒しませんか、とお誘い。
うんうん、お値段張るけど、頑張って行く(笑)。
「カンテサンス」は、プラチナ通りをとことこと下っていって、出光のスタンドの脇を斜めに入ったところにある。
ウェイティングスペースで、初めまして、お久し振り、まいどとご挨拶をして、ホールから個室へとご案内。
個室には6名テーブル。壁一面をセラーにしてあります。
乾杯にとお薦めの「ALFRED GRATIEN Brut」。
滔々とテーブルに置いたシャンパンについての解説をしてくれるソムリエ氏。
淀みなく細やかな早語りに聞く方がついていけなかった(笑)ものの、変わり者の爺さんが、ステンレスタンクではなく木の樽を使って昔ながらの手法で醸る泡、という辺りは記憶できた。
うん、ミネラルな感じと酸味のバランスも好みで、美味しい。
乾杯をして受け取ったのが、有名な「白いメニュー」。
見開きの左側に、「カンテサンス」はお任せコース1つのみの形式としていることの説明が丁寧にされている。
その理由は、「食材への拘り」。
食材の管理を徹底した上で、食材の状態がピークを迎えた時に口にできるようにするために、お任せコース一本としているとある。
そして、シェフが解釈したフランス料理の定義に基づいて、大切と考える3つのプロセス「プロデュイ(素材)」「キュイソン(火の入れ方)」「アセゾネ(味付け)」をふまえたお皿たちで食事を愉しんでいただきたい、とメッセージを添えています。
無機質なプレートの上に可愛いく載ってきたのが「鴨の腿肉とリエットのビスケット」。繊細にした鴨のリエットがはっきりした腿肉の風味に一瞬の奥行きを与えています。
黒く四角いプレートには、グラスと小さなケーキ。グラスに鼻先を近づけると懐かしいような匂いがして、
そっと啜ればなるほどの「焼き芋のスープ」。
小さなケーキは、塩をちょっと使った、タイトル「甘くないスイートポテト」。
鳴門金時の皮廻りと中身とを使った、デザートのようでいて甘くない前菜だ。
ふたつめのグラスには、「GRUNER VELTLINER Steinleithn Geyerhof 2008」。白葡萄品種グリュナー・フェルトリナーで造るオーストリアの微発泡なビオワインだ。
白いボウルに、クリーム色と黄色とのグラデーションをみせているのが、
スペシャリテ「塩とオリーブ油が主役 山羊乳のバヴァロワ」。京都から届くフレッシュな山羊の乳を使ったバヴァロアは、とことん滑らかですっきりとしたコクと風味。
そのバヴァロアを黄色く縁取るのが、
ミル・エ・ユンヌ・ユイル社というつくり手のオリーブオイル。
プレスを掛けないで自重で搾ったオリーブオイルだそうで、こんな澄んだ果実味がふくよかなオリーブオイルは初めて味わう気がする。
塩は、塩の花(フルール・ド・セル)と呼ばれる、ブルターニュ地方から届くもの。
散らしているのが、極薄切りのマカデミアンナッツと百合根。
甘みを引き出す塩に果実味で包み込むオリーブオイル、そして山羊乳の風味・コクとの三位一体がいいのだね。
ベージュの大理石の壁から切り出してきたようなプレートには、
「ポロ葱のロースととつぶ貝、剣先イカ」。例えば下仁田葱を焦がして中身をいただくように、ポロ葱の緑の部分を白い部分に巻いて焦げるまで焼いて、蒸し焼き状態の白い部分を甘く香ばしくいただこうというもの。
ん?鮑?と一瞬思ったのはつぶ貝。剣先イカの柔らかな身とコンビを組んでいる。
周りを囲んでいるのが雲丹のソース。
有名寿司店御用達の北海道の卸から仕入れた雲丹を使っているという。
合わせるグラスは、ロワールの「M de Marionnet(エム・ド・マリオネ)2005」。
通常よりも一カ月上も遅らせて収穫した貴腐葡萄から選りすぐり、長期間発酵。
ロワールで初めて、無農薬・無添加・無濾過で作ったワインだという。
貴腐ワインに思うようなアロマがすっきりと華やぐ感じだ。
漆黒のプレートに載って登場したのが、
「車海老に乗せた縞牡丹海老のタルタル」。
焼いた車海老の上に、生の縞牡丹海老をタルタルにしてソースとしてのせ、縞牡丹海老の殻からとったアメリケーヌを泡状にして添えている。車海老と縞牡丹海老と、焼いた身と生の身と、タルタルとアメリケーヌと。
それぞれの要素が鮮やかに融合していて、思わず無言で食べ進む(笑)。
ウミウシのような不思議なフォルムで登場したのが「フォアグラを詰めたブリニ」。
ブリニというのはパンケーキのことらしい。
蕎麦生地ではなくて小麦のパンケーキの中に焼いたフォアグラを詰めてある。
トッピングには、栗かぼちゃのペーストに丹波の栗。
溶けだしたフォアグラのエキスがケーキ生地に滲むように沁みています。
寄り添うは、貴腐葡萄を厳選して作られる、セレクション・グラン・ノーブル「DOMAINES SCHLUMBERGER(ドメーヌ・シュルンバジェ)」。
なるほど、フォアグラと貴腐ワインとの相性とはこふいふことをいうのだね。
一転して白いお皿でやってきた魚料理が、「螺鈿のように焼いた真鯛」。黒い板に虹色に光る貝殻の内側を嵌め込んだ装飾をみたことがあると思うけど、
あれが螺鈿(らでん)だ。
大きなサクのまま焼いて、少し寝かせてから切り分ける。
ジューシーに光る断面をそう例えているのか、香ばしくした皮目をそう擬えているのか。
タイムの泡状のソースに、エシャロットにケッパーなどを含んだ柑橘系のソース、有機栽培のキャベツ、溶かしバターとヘイゼルナッツが囲んでいます。
波状の硝子のプレートに紅い断面で誘うのは、「蝦夷鹿の3時間ロースト」。蝦夷鹿肉を骨つき脂つきの塊のまま、オーブンで火を通しては休ませを30回近く繰り返して、ローストに要する時間が3時間。
そうするとこんなに麗しい表情に辿りつくのだね。
弾力ある歯応えのあとに、すっと軽やかに赤身肉の旨みと柔らかなビジエな香りを運んでくれる。
シメジに、ジロール茸とトランペット茸というキノコのソースが旨みをよりふくよかにしています。
「ブルビーのフォンデュ」は、ラヴォー・ブルビー=羊乳を使ったチーズの真ん中あたりの美味しいところを卵黄とバターとでとろんと蕩けたフォンデュ状にしたもの。
付け合わせには、胡桃のトーストと乾燥イチジク。
ただカットしただけのフロマージュとのアプローチの違いを素直に愉しもう(笑)。
グラスの底にゼリーを仕込んだ、なんとシャーベットに蕗の葦を使ったという「蕗の葦のソルベ」にリュバーブから抽出した赤と白が鮮やかな「リュバーブのジュレとクレーム・ドラジェ」。
素朴に焼いたフルーツのようにもみえる「ブーダール」。
ブーダール峠にあったパテスリー・ブーダールのスペシャリテでレモンパイの原型にあたるものをモチーフに再構築したデザートだという。
このお皿へと至るその組み立ての物語は、原型を知らないゆえピンとこないのが残念だ。
そして、「メレンゲのアイスクリーム」。ここでクイズタイムとなって、
「今夜のメレンゲのアイスクリームに添えた香りはなんでしょう?」。
クンクンと花を近づけると、あ、中華でもお世話になってるこの香りは、八角、スターアニスだ。
このアイスクリームはズルいぞ。
この儚げでかつ奥行きのある風味は、文句なしに美味しいもんなぁ(笑)。
若き岸田シェフが紡ぐお皿たちを目指して予約殺到の、云わずと知れたモダンフレンチの雄、「カンテサンス」。店名の「Quintessence」とはなんぞやと問えばそれには、Webページに解説がある。
お皿の上の料理たちに描き得る本質や真髄を素直に表現し、進化させ、提供したい。
そんな気概の表れなのでしょうね。
「Quintessence」 港区白金5-4-7 バルビゾン25 1F [Map] 03-5791-3715 http://www.quintessence.jp/