建物の傷みがいよいよ激しくなってしまい、建て替えてまでして営る年齢ではもうないから、なんてことが、個人経営のお店では当然のことのように起きていることは、想像に難くない。
まだまだ建物は頑丈なのだけど、肝心の後を継いでくれる子供や人材がないので残念ながら、なんてことも往々に起きていることでしょう。
去る’14年の晩秋の頃。
90年ほども親族で経営してきた蛎殻町の洋食店が、
閉店すると聞いて一瞬、嗚呼ここもまた、
燈火を消す老舗のひとつになってしまうのかと思ったものでした。
’14年の11月末をもって一時閉店していた「日勝亭」が、
その姿をふたたび現してきたのは、
確か’16年の年が明けた頃。前を通る道路や舗道の改修と歩調を合わせるように、
工事の最終工程に差し掛かっているように映りました。
その1月末に晴れて新装開店した「日勝亭」。開店を祝う生花が店先をそっと華やかに飾っていました。
新装開店早々のメニューには勿論、
「カキフライ」もある。油の温度高めを思わすしっかり揚げ色の衣に包んだ、
牡蠣はやや縮んでいる気もするものの、
たっぷり添えてくれたタルタルのナイスフォローで、
一気に美味しくいただきました。
「ナポリタン」は勿論いただいたことはある。
でも、そふ云えば、
「ミートソース」のお皿を拝むのは初めてのことかもしれません。敢えて言い切ってしまえば、
他に類を見ない色味のミートソースではあるまいか。
グダっと汁っぽいこともなく、
こんもりと盛れる黒褐色ソースに目を瞠る。
成る程、ブラウンソースとはその名の通りと、
今更のように感心したりする(笑)。
「ハンバーグ」も気になるけれどと思いつつ、
「メンチカツ」を註文してみた。細やかで緩みなき衣を飾っていたもの、
ミートソースと同じ色味のブラウンソース。
旨味や芳しさをたっぷりと湛えたソースが、
メンチの味をより一層高めてくれるのです。
「チキンピラフ」と並んでメニューに載っている、
チャーハンもとい「ヤキメシ」も所望する。一瞬魚肉ソーセージでは?と思わせた、
頂上に載せた小口のハムが特異な表情にする。
ジャッジャジャッジャとフライパンを返す所作を想像しつつ、
ゆっくりとスプーンを動かすとより美味しくいただけるようです(笑)。
90年の歴史を経て、新装なった蛎殻町の老舗洋食舗、
レストラン「日勝亭」ここにあり。時間を積むように使い込んだ古いお店の味わいを失うのは、
勿体なくも切ないものだけど、
こうして新たに続き始めたことを秘かに祝おうではありませんか。
「日勝亭」
中央区日本橋蛎殻町1-32-2 [Map] 03-6319-1077