残念ながら長めの夏休みを何度も取る訳にいかないのは世の常で、そうした結果、他の景勝地や街々の夏を余り知らないことになる。
例えば北海道なんて、函館を最後に10年以上はご無沙汰なような気がいたします。
そして、真夏に催される東北を代表するお祭りも、
未だに現地では観たことがない。
そう、地域により”ねぶた”とも”ねぷた”とも呼ばれる、
あの夏の祭りだ。
毎年のようにそんなことを考えていた、この盛夏のこと。
青森を訪れる機会に恵まれた。
いつかtakapuが迎えに来てくれた、
青森空港にふたたび降り立って、
空港バスで向かうのは、弘前の地。
駅前から更に急ぎタクシーに乗り込んで、
降り立ったのは勿論、
郷土料理「しまや」の暖簾の前です。
ゆたーりとした空気の流れる店内に首を入れて、
予約の名を告げこんにちは。
先客はまだひと組さんで、
カウンターの真ん中に陣取ります。
目の前の天板には例によって、
ホーローのトレーが綺麗に並んでる。その晩のお惣菜のあれこれが、
良かったら声を掛けてねと静かに待ってくれています。
一杯だけと麦酒をいただいて、
女将さんにコレをとまず指差したのが目の前のトレー。「早生の毛豆」と云われてよくみると、
成る程、産毛が莢の周りにあって、それが活き活きと映る。
莢の中の豆を噛めば、爽やかな青みと濃い滋味が弾けます。
加減良くとろみのついた汁に包まれた「里芋の煮付」。グラスの麦酒を飲み干して早速、お酒が欲しくなってきます。
此処に来たなぁと思わせてくれるもののひとつが、みず。油炒めしたみずのしゃくっとした歯触りと山野の風味がいい。
なんかこう、心穏やかにさせてくれるような気がします。
棒鱈は、ここでは介党鱈の干物だそう。乾いて凝集した旨みが、
手間をかけて柔らかくなったその身から解れてくる。
「豊盃」のお代りをいだたきましょう。
地元の方らしき先客さんが註文していたのが、茄子の紫蘇巻き。
そこに便乗してこちらにもと所望します。女将さんが取り出すのは、立派な紫蘇。
その紫蘇に「しまや」専用という特製米味噌を薄く塗り、
茄子を包んでさらに軽く焼く。
潜ませた味噌が着実な仕事をしてくれています。
濃いぃ飴色に照るは身欠き鰊。鱗をとる作業が重要かつ難儀であるらしい。
そんな手間を含めて、有り難くいただくことといたしましょう。
「しまや」には、近くの女子大学生が女将さんの助手役を担っている。
この晩の彼女も然り、素直そうで聡明そうで、
女将さんに教えられるあれこれのひとつひとつを、
健気に愉しんでいるように映って微笑ましいのです。
そしてこれも欠かせないねと、貝焼き味噌。周囲の焼けた貝殻に、帆立を焼き混ぜた玉子と味噌。
貝焼き味噌は玉子味噌とも呼ぶらしい。
酒肴はもとより、御飯のお供にも相応しい、
ほっこりとする滋味が堪らない。
味噌は弘前の加藤味噌という醸造元に、
特別に拵えてもらっているんだそうだ。
そしてそして、〆の食事は勿論の若生おにぎり。薄く柔らかい1年ものの昆布は、歯の先をそっと受け止める。
そして期待通りの素直な磯の風味と確かな旨味。
有り難くって、思わず手を合わせてしまいます(笑)。
津軽郷土の心に女将さんの創意と感性と心意気が掛け合わさって、
沁みる酒肴と味な惣菜の並ぶカウンターとなる、郷土料理「しまや」。訊けばもう創業来48年が過ぎようとしていると云う。
「しまや」の郷土料理たちが次代にも伝わり、
感性豊かな食文化として育まれんことを想います。
takapuを息子のひとりのように思っているという女将さんには、
そんな息子に委ねたいこともあるんだそう。
女将さんの願いはいつ実現するのかな。
「しまや」
弘前市元大工町31-1 [Map] 0172-33-5066