
ちょうど半年くらい前のことでしょうか。
西馬込に向かう浅草線を中延駅で降りたところで、
急にいつもの徘徊癖が頭を擡げてきて、
そのまま第二京浜沿いをぷらぷらと南下する。
二葉四丁目の信号のところで右手を振り向いて、
きっとこのまま往けば荏原町の商店街に繋がると合点する。
このまま歩いていってしまいましょう。
何度かお邪魔したことのあるイタリ料理店「たなか」の前を通り過ぎたところで、
「大衆食堂」の文字が目に留まりました。
揺れる暖簾に営業中と認めて、ちょっぴり探検な気分で、当の暖簾を払う。
軋み乍ら開いた引き戸。
ところが、店の中は濃い煙に霞んでいて、ハッとなる。
その煙は線香の匂いを含んでいて、
その向こうに泣き腫らした表情の姐さんが、力なくこちらを振り向いた。
カウンターの香炉から立ち昇る煙。
どうやら食堂のご主人が亡くなった直後だったようです。
そんな哀悼の際に呑気な体でお邪魔して御免なさい。
きっと、敢えて店先に提げた暖簾だったのでしょうね。
暫らくして今度は、荏原町商店街方向から訪ねてみました。
ご主人を失って、そのまま閉店というのも少なからず起きることですが、
あの時の看板が明るく灯っていました。
角の削れたメラミン天板のテーブルが二台。

カウンターに丸椅子が幾つか並んでいますが、
あまり頻繁に使われている様子でもありません。
ひとまずウーロンハイをいただいて、
きょろきょろとお品書きの文字を探ります。

壁の色にも古色が滲んで、なかなかいい感じ。
永年貼ってあったであろう品札の跡がくっきりと残っています。

なんだろうと顔を寄せた「歴代総理」にはまさに歴代の総理のイラストが並んでいて、それぞれを採点するようにバツ印が付けてあるのが面白い。
政権を放り出した第90代の安部晋三に印された沢山のバツに納得(笑)。
カウンターの幕板に貼られた紙に「今週のおつまみ・一品料理」がずらっと並ぶ。


反対側の壁にも「今月の定食の部」や、
15時18時と24時26時限定のタンメン、みそラーメンなどと、
成る程大衆食堂らしい品書きが掲げられています。
何かつまみになりそうなものをとキョロキョロして、
例えば、きっと親子丼のアタマだと合点した「親子煮」380円。


似たようなところでは、「玉子焼き」280円もあり。
「ポテトサラダ」の文字が消されているのが残念でなりません。
「今月の定食の部」の最後のところにさらに貼り紙してあるのが、
“油で炒めないヘルシー低カロリ”と謳った「豚肉とキャベツの定食」。
小さな文字で”ソテイ”と添えているのが意地らしい(笑)。

豚肉自身の油で炒めたってだけじゃん!とツッコミを入れてはいけません。
食べ終わってすぐもうひと皿食べられそうに思ったのは確かなのですから。
「牛カルビ焼肉炒め定食」は、その日の仕入れによって値段が変動するとある。
括弧書きで”又は牛ロース”ともあって、なんだか自由な定食になっている。

カルビではなくて今日はどうやらロースの日らしいと思いながらいただきます。
どうやら定番中の定番のひとつらしいのが「鶏肉とハクサイのあんかけ豆腐定食」。

ありそでなさそな三つの具材の取り合わせ。
あり合わせで作った訳ではなくて、この背景にもヘルシーな料理への発想と配慮がある、
と思うことにする(笑)。
また別の夜には、
「もやしあんかけラーメン」にしようか、「チキンカレーライス」にしようか迷って、
カレーを選んでみる。

まさにおウチカレーではあるのだけれど、
何度も温め直してコクが増したような味わいは、
なかなかどうして悪くないものであります。
荏原町商店街の外れ辺りに大衆食堂「あらい」の暖簾がある。


ちょっと間を置いてお邪魔したら、
カウンターの幕板や壁のお品書きが随分と裏返っていたりして、
ご主人亡き後、色々と模索が続いているご様子。
何故か下がり壁の隅に貼られていた小さな紙に示されていた、
冬季さむい時メニューも残念ながら剥がされていた。
「とん汁」「けんちん汁」「おでん」「肉じゃが」を秘かに楽しみにしていたのになぁ(笑)。
「あらい」
品川区中延6-2-17 [Map] 03-3783-9676
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