あれれーと思ったところへ、ゴゴゴミシキシと軋む音が近づいてきた。それは、阪堺電軌上町線。 ちんちん電車が歪んだ路面をゆらゆらしながらやってくる様子をみて、 なんだか妙にホッとしたりなんかして(笑)。
少々時間を遣り過してから向かったのは、 キューズタウンの端にある、ヴィアあべのウォークという施設の一角。 やや殺風景に飲食店が並ぶ通路に、雰囲気の異なる暖簾がみつかりました。
暖簾の中央には、大きく”酒”の文字。 右手に瓢箪の図柄を配して、左手に「明治屋」と認められている。
脇に立つトタン張りの看板を眺めて一瞬、 ラーメン博物館の昭和な町並みに紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚える。 でも此処は、正真正銘の老舗居酒屋なのであります。
暖簾をちょっと払って覗いた店内は、満員御礼。 しばし待って、カウンターの中程に止まり木を得られました。
お姐さんに、大阪の純米「秋鹿」を所望する。 まずは、気になる「きずし」から。 つまりは〆鯖なのだけど、それは三杯酢のような汁をかけた大根のツマの上に載っている。 うん、美味い。
「どて焼き」はと云えば、牛肉と蒟蒻の。 名古屋のどてとは、明らかに違って、 牛肉というあたりも関西らしいなとほくそ笑む(笑)。 何気ないけど、来る度注文んでしまいそうな「ポテトサラダ」にも微笑を覚えます。
「いか団子」は、叩いた烏賊を団子にして、薄衣に軽く揚げたもの。 ほんのちょっぴり檸檬を搾って。 うんうんと思わず頷いて、ニッコリしてしまいます。
きっと冬場の名物メニュー「湯どうふ」もいい。 カウンターの中を覗くと、大きな鍋で半丁ほどの豆腐がぬくぬくしている。 それを皿にとって、出汁に浮かべる素敵な仕立て。 朧昆布が蕩けてくる。 嗚呼、しみじみと。
宮城の「於茂多加」の冷やをお代わりして、 「水なす」をサキュっと囓る。
月一の頻度で訪れるというお隣の常連さん曰くは、 女性店主、娘さんが四代目だそう。 昔は、喋るが煩いと咎めることもあったくらいだけど、今はそうはいかないなぁと。 自分は必ずひとりで来るけどね、とも。
昭和13年創業。 阿倍野界隈で、夙に知られた銘居酒屋「明治屋」。アーケード沿いにあった古の店舗を再開発で閉じたのが、10年10月のこと。 カウンターや神棚をはじめ、店内の造作のあれこれや酒燗器、建具たちのあれこれを可能な限り移築・移設して、新しい施設に居住まいを改めた。 旧店舗をすっかり踏襲している外回りの意匠には、いじらしいほどの想いが滲む。 当時の情緒にも一度浸ってみたかったけれど、それは叶わぬこと。 新しい場所に漂う残り香を大事に味わうのがよいと心得ます。
「明治屋」 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-6-1 ヴィアあべのウォーク1F [Map] 06-6641-5280
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