ところは書籍街、神田神保町。
喫茶「さぼうる」「さぼうるⅡ」のある路地より一本皇居寄りの鈴蘭通り。
狭い間口の額に印象的な黄色い看板を掲げているのが、「スヰートポーヅ」。
「包子餃子」の4文字が、やや暗がりの夜の通りに浮かんでいます。
真ん中の通路の両側にテーブルが並びそこへ懐かしきパイプ椅子が寄り添う。
お品書きには、大中小皿の「餃子」に「水餃子」「天津包子」。
コップのビールをまずはぐーっと干して、あとは小皿の塩豆をあてにちびりちびりしながら焼き上がりを待つことにします。
届いた焼き餃子の中皿は、棒状にも見える餃子が12片。
箸にしてじっと拝む「スヰートポーヅ」の「餃子」の特徴は、
左右の口が開いていること。
ふたつ折にした両側の縁を切れ目なく重ねて一体に綴じるのではなくて、
明らかに口を開けておくのがスタイルらしい。
そして、脂を滴らせたり、大蒜を強く匂わせたりするようなことのない、
素朴な美味しさだ。
やっぱり、「水餃子」と「天津包子」も気になるぞと注文もうとすると、
もう既に売り切れ御免状態だとオカアサン。
ならばとふたたび出掛けたおひる時。
目当てのふた品は、お昼のピークをちょっと外した13時からのご提供。
その時間まで、「餃子(小)」をお供に麦酒で過ごす。
ああ、通りの陽炎と餃子の焼目と麦酒壜。
そろそろ持ってきますね、ってことでまずいただいたのが、「天津包子」。
所謂、肉饅の小振りなヤツという姿の包子(ポーヅ)を手に、
かぷりと齧りつく。
蒸かし立てだけれど、妙にあっつ熱ではなくて、
軽くほふほふとする感じ。
ふっくらもっちりした厚手の皮の中から零れるのは、
椎茸や筍の真っ直ぐな旨み。
当初からの作り方を守っているのだろうと思わせる、
素朴さがやっぱりいい。
そしてお待ち兼ねの「水餃子」。
手前の汁椀にお湯を切って移してから食べてねとオネエサン。
ツルツルしつつも、崩れてしまうような気配のないしっかりしたフォルムの餃子をご指南の通り、湯を切るように蓮華で掬って汁椀に移す。
そして、つるんと逃げないように気をつけながら、
タレ皿にちょんちょんと浸し、口へ。
むほほ、やや厚手の皮が旨い。
乙な仕立ての「すいとん」をいただいているような気分が一瞬過ったりする。
卓上に用意されている練り芥子の風味を添えてもまたよろし。
昭和11年から営むという天津風餃子専門店「スヰートポーヅ」。
品書きの裏に記した「スヰートポーヅいろいろ」によると、
満州・大連で創業し、帰国後、食堂「満州」の名で終戦まで営業、昭和30年に大連時代の店名で再開したのだという。
その大連時代の店名が「スヰートポーヅ」。
「スヰートポーヅ」は「おいしい包子(ポーヅ)」という意味。
箸袋には「是味多包子」とあるね。
「スヰートポーヅ」
千代田区神田神保町1-13-2
[Map] 03-3295-4084
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