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Cucina Italiana「mondo」でふたつのMenu感性と世界の共有
自由が丘の住宅地の直中に話題のレストランがあるという。
ルートを一端頭に入れてバス通りを往くも、
初めて歩く道筋に右折ポイントが判然としない。
ここかなぁと曲がって丘を上がったものの、
どうや一本行き過ぎていたらしい。
ならばこの辺りに、とまさに閑静な住宅街の道沿いをきょろきょろしながら進むと、住宅と空き地の間に、
奥へと誘うような暗がりが見つかります。
もしやここでは、と近づくと、そのアプローチの路傍に球形の硝子が仄かな光を灯していて、
そこに刻まれた文字が「mondo」だ。
その先の階段から下を望むと、小窓を開けた白い建物が浮かび上がる。招き入れてくれたホールは、ぐっと照度を落としていて、その分ライトアップした庭先を切り取るようにした窓が印象的になっている。
スプマンテをいただいているところへ目の前に置かれたプレートには、左右にふたつの前菜が据えられています。
これが今夜の「mondo」への入口、そして岐路。右はイタリアの伝統的な郷土料理を志向した「Menu regionale」、左は日本の旬な食材と先端な料理技術にシェフの感性を掛け合わせた新しき「Menu moderno」。
前菜ふたつをヒントにどちらのMenuにするか選択してほしいという。
当然どちらも気になる(笑)ので、複数名でテーブルを囲まないといけないンだ~と笑いつつ、双方のオーダーといたします。
ボクのチョイスは、「moderno」で。
長方形の黒いプレートに妖しく誘う赤を三点盛ったのが「熟成肉のバリエーション」。
田園調布にある熟成肉の専門店「中勢以」提供の但馬牛だという。
左から云わばお刺身で肉のほの甘さを味わう。
真ん中の手毬寿司状のものは、肩から脇にかけての部位を檸檬でタルタルにしてイチゴのシートをのせたもの。
右がウチモモをいろいろのスパイスに漬け込んでハムにしたもののスライスで、トリュフをあしらってある。5週間ほどの熟成を経たお肉たちなんだそうで、元々グレードの高い牛肉にさらに手間暇を施していることになる。
どれもがまるでクセのなく、丸さの中に滋味があるという印象のまますーっと消えていく。
俗に腐る寸前が旨い、とは云うけれど、管理された熟成肉というのはしみじみ味わいたくなる魅力を持つのだね。
ふた皿めに「魚介のクスクス」。あかむつのソテーを載せたクスクスで、云わばこれもパスタなんだねと思っていると、「ところが…」と説明を加えてくれた。
ホントのクスクではなくて、解したカリフラワーをサフランで色付けしてクスクスに見立てたものですと。
思わず口をついてでるのは、へー、面白~い(笑)。
確かにクスクスとはやや食感は異なるものの、愉しいアプローチであるね。
旨みをたっぷり含んだソースが、あかむつと見立てクスクスとをすんなりと結びつけてくれています。
そのソースが漂わせる酸味は、トマトを擂り伸ばして、その上澄みを使ったものだそう。
陰でそんなに手の込んだことをしてれくているのだね。
いただいたワインは、「Dario Princic vino bianco 2007」。
ソムリエ田村氏の説明によると、生産者ダリオ氏が酒場で量り売りをしているハウスワインを瓶詰したもので、皮と種を一緒に圧搾して醸したワインなどをいくつかブレンドしているそうで、主にはソーヴィニヨン・ブラン種。
ちょっと白濁りしたその雫は、最初軽やかで、空気に触れ温度がやや上がってくるに従ってビオに思うような風味と奥行きを増してくる。
うん、美味しい。
三皿めにと「イカ墨を練りこんだタリオリー二 ビーツの泡と」。コクを思う黒い細平麺と薄切りの烏賊の身が当然のように好相性。
煮立たせたビーツに卵白などを加えて泡立てたという、赤くて繊細な泡がほの甘い風味を添える。
これもエスプーマによるものなのだろか。
バスケットから手にとって、冒頭から代わる代わる口にしていたのは自家製のパンたち。全粒粉の丸いパンやステック状のグリッシーニ、クミンやコリアンダーといったスパイスを含ませたものタラーリ、チーズ風味の薄焼きなどなど。
ほとんど平らげて、お代わり貰ったりして(笑)。
「ゴルゴンゾーラを詰めた栗粉のラビオリ モスタルダ添え」にナイフを入れると、
その名の通り、中からゴルゴンゾーラが溢れ出す。
栗を粉モンにしてしまうのは、新しいンじゃなかろうか。
風味明瞭な皮に風味明瞭なチーズを合わせるセンスの妙。
モスタルダというのは、果物や野菜をシロップで煮て、マスタード・エッセンスを加えた寒天的なキューブで、フルーティな甘さを添えてくれます。
メインには、「猪のアグロドルチェ」。アグロドルチェというのは、甘酸っぱい仕立て、というような意味。
65度で6時間、じっくり火を入れたというイノシシの身肉はしっとり柔らかで、素直な旨みの向こうに仄かな野生の風味がして、いい。
周りを飾るチョコレート、プラム、赤ワインのソースを交互に試して、添えたキャベツの甘さも加減のいいアクセント。
んー、一気に食べちゃうね。
デザートは、「柿とアーモンドのデザート」。
太鼓焼的フォルムの外側は、甘さを控えた柿のアイス。アーモンドとあるのはアーモンド風味のリキュール、アマレットを使ったアイスを中に詰めているから。
シャリっとした食感とトロッとした舌触りの中に柿の風味にアーモンド風味が行き来します。
「Menu regionale」はというと、
「イタリア各地のハム盛り合わせ」に始まり、「魚介のクスクス(シチリア)」「全粒粉のビーゴリ アンチョビと玉ネギのソース(ヴェネト)」に、
「ポルチーニ茸のカネーデルリ(アルトアディジェ)」「猪のアグロドルチェ (ラッツィオ)」「栗のセミフレッド (アルトアディジェ)」と続く。
こちらはこちらで、定番寄りの仕立ての中から真っ直ぐな滋味が伝わるお皿たちだ。
自由が丘の住宅地の隠れ家レストラン、「mondo」。お店のWebページでは「mondo」の意味を、「世界」「天地・万物」、そして「自由が丘の小さなレストラン」と紹介している。
近隣住民の一定の同意なくして叶わないこのシチュエーション。
丁寧なお皿の提供ときちんとコミュニケーションのある応対を損なわないよう、着実に対応できる範囲内で予約を受けるようにしているそう。
コンパクトな距離感の中で、シェフとソムリエの経験と研鑽と創意と感性が描く世界を共有できたような、そんな気にさせてくれるのも「mondo」の魅力の一面なのかもしれません。
「mondo」 目黒区自由が丘3-13-11 [Map] 03-3725-6292 http://www.ristorante-mondo.com/