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寿司の伝導師「酢飯屋」で 都内某所に秘かに饗す宴黒米の握り
それは年の瀬も押し迫った頃。
襟足を過ぎる風が身を縮めさせ、足下からセリアガる冷気が身震いさせる冬の夜。
都内某所のひと通り少ない裏通り。
閉めているはずの店にこそこそと、ひとりまたひとりと集まる挙動不審な輩たち。
そこが、裏世界で「酢飯屋」と呼ばれる闇寿司店の最近のアジトらしい。自ら”寿司の伝導師”と名乗り、カルトで神出鬼没だという「酢飯屋」。
その「酢飯屋」を舞台に密かに饗された宴に潜入してみた。
まず提示しなければならないのが、持参した酒。
自らの嗜好や共有したい滴、怪しい場にふさわしいプレゼンテーションなど錯綜する想いを酒瓶に籠めろ、というのだ。
カウンターではなく、小上がりに案内されて、一同に目配せ。
早速マグナムな「POMMERY」を抜く儀式で、何事かが始まる。
卓上には、「煮貝の盛り合わせ」「小物の南蛮漬け」。
そこへ大きく赤い異物が持ち込まれ、添えられた人数分のスプーン。
大間の鮪のものだという中骨を中おちのついたままをデンと載せ、スプーンで削って食べるようにさせる様式は余興要素をも含んでいて愉しいが、これもまた何かの儀式ではないのか。
様々な瓶には、甘口赤の「天橋立ワイン」があるかと思えば、津軽のりんごジュースが差し出され、果たして梅干を入れ割る球磨焼酎「もっこす」。前後して、出処秘匿の無農薬米純米酒に発泡酒「すず音」に「酔鯨」に燗酒にと、いよいよ訳が判らなくなってくる。こ、これは危険だ。
酔いの縁を辿り始めたところに牙を剥いた異形にハッとする。老成バラクーダにも似たグロテスクに黒いカマスを「しゃびの塩焼き」と謳って、まるで生贄のよう。
黒々とした外皮とふわりと軽やかな白身とのコントラストが妖しい。
海産が互いに僥倖を想うよな「牡蠣とブリの味噌鍋」で、ぶりっとした牡蠣の身の洗礼を受けたかと思えば、
内子と味噌と剥き身が混然となった「豊前本ガニ」に陶然とする。
このまま酔いに任せてしまおうかと悪魔が誘う中で、めくるめく握り世界が展開されていく。
赤酢にしては妙に鮮やかだなぁと想った酢飯は黒米仕立て。
「穴子の押し寿司」を経て、「バラちらし寿司」へと至る。
ふう、なんとか無事に寿司の伝道師のアジトへの潜入を果すことができそうだ。
背中で遠ざかるアジトは、はて、いつまで其処にあるのだろう。
酩酊した脳裏で想うのは、そうとなれば今度は、ゆっくりと適度な酒量配分で、かつ、正対するカウンターで握ってもらいたものだということ。
今夜の宴の司祭は「築地市場を食べつくせ!」の築地王さん。
そして執事役多謝の「フェティッシュダディーのゴス日記」のジュネさん。
また、秘かなる宴の様子は、ワシ・ブロさん、佃の旦那さんの潜入レポに詳しい。
「酢飯屋」 都内某所 詳細不詳