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麻布十番・天ぷら「畑中」で 油と衣の繊細魔法活性する甘さ
例えば、今はピーコックの向こうへ移転した「かどわき」にお邪魔した時。
例えば、今は改装なった「鳳仙花」へとまわり道した時。
そのお店についてなにも知らないまま、横目でみる暖簾とその佇まい。
その情景に想う、ちょっとした敷居の高さとそれが故のささやかな羨望。
そんなずっと秘かに気になっていたお店「畑中」に出掛けてみました。やや遠くからも目に留まる「天ぷら」の筆文字。
朧に浮かぶ満月に蟹らしき影を描いた暖簾を今夜はすっと払います。
カウンターの右手隅に席を得て、まずはプレモルで喉を湿らせる。
目の前には、大振りな蓮根や茄子、アスパラなどなどを収めた桶が瑞々しい装いで据え置かれています。
予約の際にも、大変恐縮されながら値上げの旨伝えられていた、そのお安い方の「榎」でお願いしました。
まずは、さっと炙った墨烏賊。
噛めば炸裂する甘さに思わず顔を見合わせる事態を呼ぶ(笑)。
素朴なお皿から溢れる魅惑に日本酒が欲しくなる。
でも、炙り立てを逃しちゃいけないとペロッと平らげる。
烏賊には間に合わなかったけどと、山口の特別本醸造「東洋美人」のお銚子を。
最初に敷き紙の上に据えられた天ぷらは、剥いたばかりのマキ海老の頭。
煌く珊瑚にも似た色合いをさくぅとすれば、口腔に広がる軽やかな甘み。
続いてやってくる身の方は、まずは塩で。
そして、二本目は、やっぱり塩で(笑)。
素直な澄んだ甘みがじーんとくるのだね。
薄ぅく衣を纏ったアスパラが弾けさせる大地な甘さ。
衣の間から甘い湯気を立てる鱚の白身。
合わせた半切をそっと開けば秋の甘さ滲み出る茄子は松山の産。
中心に向けてほんのり桜色半生仕立ての帆立の甘さったらない。
肉厚蓮根のしゃくとした歯触りのその後から襲うほの甘さ。
くるんと丸まった穴子の身の甘さには野生が潜む。
揃え並べた隠元と伏見唐辛子の青い甘み。
油と衣の繊細な魔法は、
こうして食材の活性を色々な甘さで届けてくれるのだと教えてくれているようだ。
〆にかき揚げ。
天丼か天茶かのいずれかでってことなのだけど、そのままいただいて、天ばらにしてしまう。
だって、かき揚げに含む魚介や野菜の甘さを直裁に愉しむには、
こうするのが一番いいと思ったンだもの。
店主とのお約束もあって、店内の写真を載せるのは控えてるけど、それがちょっと残念です。
蝶ネクタイで凛々しく迎えてくれる麻布十番・天ぷら「畑中」。それには、巷知る日本橋の老舗天ぷら店のトレードマークが思い浮かぶけど、それはどうやら見当外れではなく、日本橋へのリスペクトの想いが籠められているもののようです。
「畑中」 港区麻布十番2-21-10 麻布コート1F [Map] 03-3456-2406