
随分と久し振りに歩く元町です。
街灯に電飾が飾られていて、クリスマスの残り香を思わせるメインストリートは、キタムラやフクゾー、スタージュリーの本店の並ぶ有名お買い物ゾーン。
でもいつも気になるのは、
一本山手公園側の裏道なンです。
その元町仲通りでも特にエキゾチックなオーラを発しているのが、仏蘭西料亭「霧笛楼」です。
洋館、という雰囲気を纏った建物の一階には、お菓子のブティックとレストラン。
そして、アールを描く階段を上った二階でもお食事がいただけます。
二階のエントランス脇のプレートに自分の名前を見つけるのがちと恥ずかしい(笑)。
案内されたのは、八畳のお座敷。
隣の間とは、金箔を含めた艶やかな襖で仕切られて

います。
奥には床の間的板間があって、屏風の手前には、中華のものとも思しき骨董が飾られています。
左手の隅切にはステンドグラス

。
様式が混交した不思議な空間は、フレンチだけど料亭だという「霧笛楼」に妙に似つかわしい気もいたします。

ドライシェリーを舐めながら、印字されたメニューの紹介をいただく。
「温故知新」と題されたコースはアミューズからハーブティまでの8皿構成。
どんなのだろうねと、それぞれの長いタイトルを読むだけで、期待がさらにと高まります!
まずは、付き出し「霧笛楼冬の風物詩 自家製サーモンフュメ」。

フュメとは”燻製”を意味するようで、オイルにしっとりとしたサーモンの身にほどよい薫香が添えられています。うんうん。

続いて、「マダガスカル産海老のタルタル 小松菜と生姜のブランマンジェ 白胡麻とヨーグルトの冷製スープとともに」(長い!)。
ボール状の器には白いスープが張られ、
そこに浮かぶのは円いデコ型に抜かれた三層。

タルタルから溢れる海老の旨味をトップのブランマンジェの生姜風味が輪郭のあるものにする。
うんうん。
さらに長いメニュー名は、「フランスヴァンデ産 地鶏もも肉とシチリアンルージュトマトのコンフィ 乾燥トマトソース 茸のソテーサラダ仕立て」。
水菜と身の厚いキノコのソテーを載せたコンフィの手前に印象的に佇むトマトは、メニューにpetit tomate “yokohama”とある。訊けば、「霧笛楼」では、地産地消となる食材を積極的に取り入れているそうで、このトマトもシチリアから取り寄せた種子により横浜で栽培されたものなんだという。ふむふむ。


お手頃なあたりで白をと選んだワイン「Crozes Hermitage Mule Blanche 04」は、すぅっと軽くて呑み易い。
あれ?ボトルはどこに?と探したら、中国の陶磁とも思える壺をワインクーラーに使ってるのね(笑)。
4品目は、
「帆立貝のサッと網焼きと横浜カブのマリネ 緑胡椒風味 貝類のカプチーノ仕立て サフラン風味」。


貝の風味の魅力をしっかり含んだクリームスープが美味しくて、ふむふむ。
海老、鶏、貝ときて続くお魚料理は、「仙台産ナメタカレイのソテー 日本のゴボウのリゾットと西洋ゴボウのソース トリュフの香り」。


カリッとした表裏と見た目以上にふっくらとして味の濃い身肉の滑多鰈。そしてその下に敷いたリゾットがいい。牛蒡の風味がいきいきとして、甘くすら感じさせてくれるんだ。うんうん。
アルデンテなライスは、初代の料理長が福島で作る天日干したしたお米だという。初代料理長、福島で隠遁してお米作ってるんだね。
そしてメインの一方の雄、お肉料理は、「仔羊のコートレット 黒コショウソース ポテトとカリフラワーのグラタン ブロッコリーの生ハムソース」。

ラムはやっぱりイイやね~。香りの強いラムとバランスしたフォンと黒胡椒のソース。うんうん。
よく「カツレツ」への転化が語られる「コートレットcatelette」は、この場合”骨付き背肉”という意味になるんだ。
そして、デザートが「赤いフルーツとピスタチオ風味のアングレーズソース フロマージュブランのムースリーヌとバニラのグラスとハーモニー フィヤンティーヌ仕立て」。

赤いフルーツってなんだろね?やっぱり苺かなぁ、なんて話していたら、それはやっぱりイチゴとラズベリー。薄焼き生地を帽子にして、その間にチーズのムースとバニラアイスが隠れています。
チーズとバニラを重ねたところがキモかぁと思っていると、下地のソースにはラズベリーの酸味の間からピスタチオがふっと香るという仕掛けになってる。ほうほう。
レモングラス、レモンバーム、カモミール、ボダイジュなどをミックスしたハーブティ

にカカオな小菓子

で、ご馳走さまと手を合わす(笑)。
実は、観光地にありがちな風化したお手盛り料理だったら切ないなぁ、と危惧していたのだけれど、それは杞憂でありました。ま、お安くはないけどね。
異国情緒横濱をそのまま体現したかのような「霧笛楼」が供する料理は、横濱フレンチとも呼んでいるそうです。横浜近郊で栽培された野菜や相模湾の魚介を取り込んだフレンチということなのでしょう。
そんな「霧笛楼」の誕生は、意外や1981年。
明治の開港当時からここにあったかのようなエキゾチックな風格は、往時西洋の異人を相手にしていた「芸者ハウス」をモチーフにしたことに由来しているらしい。


そして、「霧笛楼」という店名は、港の見える丘公園近くに記念館があるほどに横浜にゆかりのある小説家、大佛(おさらぎ)次郎の小説「霧笛」からだという。
開港を契機に開化していく横浜の情緒も戦後の駐留軍に影響を受けた横浜の情緒も、どっちもなんか好き(笑)。
久々に、横浜おのぼりさんした夜でありました。
「霧笛楼」
横浜市中区元町2-96 [Map] 045-681-2926
http://www.mutekiro.com/
column/02483