ちょっとお祝いにと、有名イタリアンのひとつに数えられる広尾「ACCA」にお邪魔してみました。
エントランス周りは気取りのない設え。
右手フロアの奥からゆっくりと現れたのがシェフのお母さんと聞く方でしょうか。
傘や外套の扱い、テーブルへの案内などにルーティンな動きはなく、あれ?っとも思うけど、畏まった気分にさせなくて、それはそれでいいかもしれません。
飲み物を訊かれると、ビールかシャンパンだと云う。イタリアンらしくスプマンテではなく、シャンパンとするところになにか意図があるのか分からないまま、シャンパンのグラスをいただく(ちなみにワインリストには、スプマンテもリストされている)。
お母さんがちょっと震える手で三度四度とボトルを傾けてゆっくり注いでくれる様子をじっと見入ってしまった。
料理はおまかせコースのみ。
紙に記したメニューはなく、苦手なものを訊かれ、それを加味するカタチですべてのお皿を口頭で説明してくれるスタイルです。
説明された全部を覚え切れないのが切ないものの、なんだか期待が高まってきたぞっと。
まずのお皿は、野菜のスープパルミジャーノのせ。
玉葱をはじめとした野菜たちの甘さがすっきりと表されていて、そこにパルミジャーノがコクを添えています。
続いて、大き目のスプーンが運ばれてきました。
フォアグラとはちみつのシャーベット。
一気に口に含んだ途端、熱々フォアグラの香りとコク味にシャーベットのヒンヤリとはちみつの香気が交錯して弾けた。
いやはや吃驚。思わず顔を見合しちゃったもんね(笑)。
リストから選んでみた白「Grande Bianco」は、フルーティな香りの中にふんわりとした甘さとキレがバランスしていてなかなか美味しい。
Slovenija、つまりスロバニア産のワインってことらしい。
さらなる前菜は、生ハムと京筍。
極々薄く、削るように仕立てた妖艶な生ハムの下に隠れているのが、炙って食感と香りが格段に増したタケノコだ。
ははは、なんて絶妙な取り合わせ。
メロンと生ハムを組み合わせるのが恥ずかしいことのように思っちゃいそうだ。
中華の料理人のような井出達の男性が立派な鮑を両手にテーブルにやってきて、トマトのパスタを黒鮑のリゾットに変更したいがいいかと訊く。もち全然OKっす、追加料金の心配も一瞬過ぎったけど(笑)。
柔らかくかつ適度に鮑らしい食感を残したぶつ切りの身をふんだんに含んだリゾットには鮑の肝の、イカ墨っぽい色合いのソースがかかっていて、お~、しみじみしちゃうお味。
底にバニラスティックを仕込んだ毛蟹のホイル包みでお約束の無口になってから、再びのパスタ。
フェットチーネほどの手打ち麺にたっぷり絡んだ橙色の粒子は、日本酒にあう珍味として知るこのこ(海鼠の卵巣)をカラスミ様に乾燥しさせたものを削りおろしたモノ。
このこの風味を念頭にいただくと、あはは、適切な塩味と一緒に頭に描いたのと同じ風味が口中に広がって、楽しいな。
お魚は、鰊のグリル。
柑橘をさっと搾っていただけば、ニシン独特の食味が不思議な軽さを伴ってくる。
そしてお肉は、仔羊のグリル。
トマトソースを纏った仔羊肉からしどけない旨汁がじゅんと滲んできて、この期に及んでペロンと食べてしまう自分がちと恥ずかしい。
チーズスフレに胡麻のアイスが載ったドルチェにも感嘆符を打って、カプチーノ。
確かに、お母さんや男性スタッフにきりっとしたサービスらしいサービスのスキルは窺えないし、ホールにひとりその道のプロが就いたらお店の格が格段と上がるだろうことは間違いがない。
だけど、なんかいいんだよな、ゆった~りして消え入りそうなお母さんの接客も。
トータルの食事時間3時間。でも間延びした印象はなかったもんね。
帰りがけにお見かけしたのがおそらく林シェフ。
客にニコリともしない不遜なヤツとも思えるけど、人見知りでシャイな料理人と考えると、お店や料理全体を包むニュワンスがもうちょっと判ったような気がするンだけれど、どうだろう。
「ACCA」
渋谷区広尾5-19-7協和ビル1F
[Map] 03-5420-3891
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