池袋線はと云うと、その逆のおよそ真南の方向へと線路を向けて飯能駅方面へと向かう。
ところが、池袋線はすぐさま右に大きくターンして、新宿線と並行するように北西へとルートをとる。
そして、北西に向かったふたつの線路は、
航空自衛隊の入間基地を挟む辺りで最接近する。
その距離おおよそ、1.3km程ではないでしょうか。
入間基地に隣接する駅として知られるのが、
池袋線の稲荷山公園駅。
基地を挟んで反対側には、新宿線の狭山市駅。
連日の暑い夏の或る日、
その稲荷山公園と狭山市駅の中間に位置する、
住宅が点在する裏通りにいました。
七夕通りと呼ばれる通りから、
斜めに分け入った、そんな場所。
灰色のトタンの看板には、
「うどん そば ふみ」という平仮名が読める。
“手打”の部分は朱文字だったのでしょうか。
ペンキが陽に焼けてすっかり掠れています。
店先には、隅が千切れた暖簾が揺れる。
「田舎っぺうどん」北本店の当時の暖簾、
あそこまでの千切れっぷりではないけれど、
沢山のひとが暖簾を払ったことの証左に、
違いはないでしょう。
期待通りの簡素にして朴訥とした店内。 暑さに冷えた麦茶が嬉しい。
テーブルの奥には畳敷きの小上がりがある。 その隅の本箱には、コミックの背表紙が並ぶ。
お品書きよりも前に目に飛び込んできたのは、
「本日ヨリ禁煙デス」の貼り紙。
ほう、今日から、と一瞬思ったものの、
後日にもそのまま貼られていたので、
そふいふことなのでしょう(^^)。
麺打ち場と思われる部屋に面した壁の上に、
定番と思われる短冊のお品書き。
季節ものや新作ものは貼り紙で、
ということなのかもしれません。
暑さゆえもあってまず選んだのは、
「冷やしたぬき」うどん。
硝子のボウルが涼しげで、いい感じです。
トッピングは、揚げ玉に細切りにした胡瓜。
ナルトにかいわれ大根、刻み海苔に紅生姜。
小皿には、挽いた胡麻たっぷりに、
薬味の葱に練り山葵。
割り箸を割って、いざいざ。
器の中からうどんを引き上げて、啜る。
如何にも手打ちらしい、
縒れた感じの口滑りと硬過ぎず柔らか過ぎずの、
そんな歯触りが、いい。
甘めででもすっきりと冷えた甘汁ともども、
うんうん、美味しい。
暑い夏に、ひと時の涼を呼ぶご馳走だ。
あまり間を空けずに訪れて、
畳敷きの小上がりに上がり込む。
貼り紙メニューのひとつ、
「肉きのこ汁うどん」を所望します。
麺に武蔵野うどんぽさが感じられるかと云うと、
その答えは、否。
そもそも地粉で打ったうどんではなさそうなので、
その視線は脇に置いて、愉しむことにする。
うん、一貫して甘めの汁だけれど、
これはこれで悪くない。
今度は温かい器はどうだろうと、
定番系品札にあるメニューのひとつ、
「肉うどん」をいただく。
長葱と一緒に汁でさっと煮た様子の豚バラ肉が、
必要十分に載せられています。
ナルトもおまけしておきましょう(^^)。
過不足なく適度なうどんの量感は、
「冷やしたぬき」で思ったものとおよぞ同じもの。
うんうん、いいねとどんぶりを両手にして、
甘汁をすすっと啜る。
これまた同じく、優しくほの甘く、
バラ肉の脂を少し含んでいて、旨い。
と、思うも束の間、
あ、あちちちち。
高台を持とうがどうしようが、
兎に角どんぶりが熱い。
きっと、どんぶりも温めているのでしょう。
女将さんに蓮華を所望して、
事なきを得たのでした(^^)。
稲荷山公園駅と狭山市駅の中間エリア、
入間基地の北側の七夕通り近くに、
手打ちうどん・そばの店「ふみ」は、ある。
ご主人に訊けばやはり、
女将さんのお名前が「ふみコ」さん。
うどん打ちが得意だった女将さんが興したお店を、
いつの日かご主人と切り盛りするようになってた。
そんな経緯を勝手に、想像したりしています。