蕎麦処「源智のそば」で擂鉢の荏胡麻が引き立てる笊蕎麦の美味しさ名水の傍らで

genchiこの日の松本は、すっきりと晴れ渡っているものの、爆弾並みの低気圧の影響で強い風が吹いていました。
建物の屋上に上がると、周囲を囲む山並みの木々の色付きがくっきりと眼に映り和ませます。
丁度ひる時となり、然らば蕎麦でも所望いたそうと有名処らしきお店の一軒へと市民芸術館の向こうにある「浅田」に足を運ぶも、仕込みの都合とやらで臨時休業。
もっとも、もしも並んでいたりしたら避けようと次の候補も頭にあったので、そのまま気のないで素振りで通り過ぎます(笑)。

駅前に至るバス通りを渡りとある裏道へ入り込む。
落ち着いた街並みの所々に気になるお店が在り、
何気ない散策が愉しくなってきます。

高砂町通りと呼ぶ裏道の界隈を歩いては、
立派な枝振りの松の木をシンボルツリーにした、
料亭の如き造作の「まつか」という鰻店の佇まいに見惚れたり、
今はもう営っていないらしき、
軽食堂「ブンブク」の旧きルックスを愛でてみたり。

そのまま東進すると小さな水路が現れて、
其処の街路樹に木札が揺れているのが目に留まる。genchi01吹流しが受ける風で、時に激しくはためく木板には、
“そば“とだけ書かれています。

その先に緑青色の大屋根。
手前にも井戸屋形風の屋根がある。genchi02お店の前を素通りして近づくとそこには、
まつもと城下町湧水群と示す立て札。

軒下の扁額には、
史跡、源智の井戸とあります。
説明書きを読むとこの井戸は、
松本に城下町が形成される以前から飲料に用いられてた名水で、
そもそもの持ち主は小笠原氏の家臣、河辺縫殿助源智で、
その名をとって源智の井戸と呼ばれるようになったのだそう。genchi03お蕎麦をいただく前に、ちょっと口や手をこちらで濯ぎましょう。

井戸を背に振り返って、
通り過ぎたそばの店の佇まいを眺める。genchi05壁を伝う蔦が緑の頃はまた表情が違うのかもしれません。

「源智の井戸」の並びの蕎麦店は、
その名もそのまま「源智のそば」。
店先の品札を眺めつつ、暖簾を払いましょう。

格子を挟んで通りに向かうカウンター席に腰掛けて、
一枚の品書きを凝視する。genchi06黒板もどうぞとの声に促されて、奥の壁を振り返ります。

註文を済ませて、白菜のお新香に箸を伸ばす。genchi07こふいふちょっとしたものが嬉しいのでありますね。

到着したのは、大盛りのざる蕎麦に、
舞茸の天麩羅。genchi08genchi09ただのざる蕎麦とちょっと違うのは、
小さな摺鉢が添えてあること。
そこには既に、えごまが摺った状態で用意されているのです。

つけ汁をお猪口に注ぎ、
まずはそのまま少な目の蕎麦を手繰る。
うんうん、妙な甘さもベタつきもなく、
かといって醤油の角もなく、
すっきりとした旨味の汁がいい。

そこへ半量ほどの摺り荏胡麻を汁に投入。
どれどれとふたたび蕎麦の先を浸します。genchi10つっ、ず、つ。
成る程、仄かな荏胡麻の風味が、
蕎麦の風味を後押ししてくれるような、
そんな気がする。

決して打ち消しあうことなく、
相乗効果を齎らしているような。
そして、食べ進むにつれて、
脳裏が蕎麦と荏胡麻の風味でどんどん満たされてくる。genchi11ああ、こんな体験初めてだ!

そんな素敵な蕎麦の所々で加減のいい合いの手を入れてくれたのが、
冬の味覚、舞茸の天麩羅。genchi12ひとつだけ添えてくれていたカリフラワーの天麩羅も、
面白美味しいヤツ。

そしてそして、美味しい蕎麦は勿論蕎麦湯も旨い。genchi13どこまでもすっきりした旨味は、
名水で打ち湯掻いた蕎麦の醍醐味のひとつなのかもしれません。

松本の城下、高砂町通り。
名水との呼び声高き「源智の井戸」の傍らに「源智のそば」はある。genchi14蕎麦の美味しさってこふいふことだったんだって、
やっと気付いたような。
そんな秘かな歓びを味わわせてくれました。

「源智のそば」
長野県松本市中央3-7-8 [Map] 0263-33-6340

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