長崎料理というとやっぱり、卓袱料理。そう云いたい気もちょっぴりするものの、本格的な卓袱料理の卓についた経験が未だない。
初めて長崎を訪れた時には、おひるに長崎中華街のお店でちゃんぽんをいただいた憶えがあるっきり。
勿論、いきなり料亭を訪れるなんてことは全くもって考えもしなかったし。
ふたたびご当地に赴いて、ちゃんぽんや皿うどんをいただきたいなぁと思いつつ、そのまま今に至ります。
ちゃんぽん・皿うどんで思いつくのは、
最近お邪魔した室町の「二代目 長崎楼」とか、
八丁堀は桜橋近くの「長崎菜館」。
三軒茶屋は茶沢通りの「來來來」なんかも懐かしく思い出します。
そんな、ちゃんぽん・皿うどんを供する店が、
銀座の真ん中近くにもあると聞いて足を向けました。
松坂屋が解体されてすっかりぽっかり空が広くなった中央通り沿いに、
ラオックスの免税店があるなんて知らなくて吃驚しつつ、
辿り着いたのが長崎センターなるビルの前。
以前は、長崎県関係の行政機関や、
マスコミ、飲食店が集まっていたものの、
今はそんな長崎色は随分と薄れてしまっているようです。
そんな長崎センタービルにあって、
今も鋭意健闘中なのが長崎料理「銀座吉宗」。
地階への螺旋階段を降りると、漆喰を模した壁が設えてあり、
料理屋の風情をなんとか醸そうとしている様子。
茜色の暖簾を払って、引き戸の中へと侵攻しましょう。
壁沿いの小さなテーブルに案内されて、
運んでくれた湯呑み茶碗を受け取って。
真ん中の島は、桟敷席のような仕切りがあってちょと面白い。
湯呑み茶碗には、長崎ちっくに唐船のイラストが焼き込まれています。
ご注文は、当店名代の一品と謳う「夫婦蒸し」。
いきなりドンブリをふたつ並べると何やら、
ちょー腹ペコか、そもそも大喰らいであるかの気分も過る(笑)。
ドンブリの蓋には、湯呑みと同じ唐船の図柄が刻まれています。
両の蓋をパカリと返すと、
急にテーブルの上が華やかになる。
一方が茶碗蒸しで、もう一方が蒸しずしのドンブリ。
このふたつのドンブリのセットは、
「吉宗」初代が考案したものであるらしい。
鮮やかに映る蒸しずしは、三色の彩り。
錦糸玉子の黄色に海老おぼろの桜色。
褐色エリアは、刻んだ焼き穴子が占めています。
玉子もおぼろも仄かで自然な甘さであるところが好ましい。
軽い酢飯であるところも好感です。
たっぷりとした量感の茶碗蒸しには、
桃色と若草色でのの字を巻いた蒲鉾が浮かぶ。
銀杏や椎茸、かしわ、小海老など9種類の具を辿りつつ、
しっかりとした出汁と細かな玉子の肌理を味わいます。
溢れる出汁に茶碗蒸しが、
蒸しずしをいただく際のお椀代わりにもなっていたりする。
内裏と雛が並んでいるような、
似合いの夫婦のような蒸し料理であるところから、
「夫婦蒸し」と名付けているようです。
裏を返したお昼には、
真ん中の桟敷にレインブーツを脱いで上がり込む。
ふと眺めた壁の額には、長崎絵。
壁側のテーブルでは、
いい感じにお銚子を開けているスーツ姿の御仁。
もうお仕事済んだのでしょうか(笑)。
ご注文は「長崎皿うどん」。
揚げ麺ではなく、柔い方の麺でお願いします。
炒めたやや太の麺の上に載るのは、ラードで炒め和えたあん。
例えば「二代目 長崎楼」のそれと比べると、
ぬめぬめとテカったあんだ。
卓上に練り芥子の用意がないので、
近くのお兄さんに声を掛けて、小皿に貰う。
普通に美味しいけれど、
どっちが好みかと訊かれたら、
「長崎楼」の皿うどんが好みであることに気づいたと、
そう応じることになる感じ。
卓上にあるのは、皿うどん用のソース。
皿うどんは練り芥子や少々のお酢でいただくって習慣は、
「長崎楼」で培ったものではあるけれど、
それって長崎のご当地では定番ではないのかしらん。
中央通りの長崎センタービルに、
長崎料理「銀座吉宗(よっそう)」がある。
長崎市筑後町にある「吉宗総本店」の創業者は、
伊予松山藩士だった吉田宗吉信武で、
長崎で「茶碗蒸し」に出会い虜となり、
慶応2年(1866年)に商いを興したことがはじまりだという。
「吉宗」の東京支店として開店し独立したのが今の「銀座吉宗」で、
ご当地「吉宗」のお品書きには、
「皿うどん」や「ちゃんぽん」はないようです。
「銀座吉宗」銀座店
中央区銀座8-9-16 長崎センタービルB1F [Map] 03-3572-7686
http://www.ginza-yossou.jp/