モルタルの外壁に直接描いた文字は、”高円寺 肉汁うどん”。ちりめん風の橙色の暖簾がいい表情です。
暖簾を潜ってすぐにある券売機でぽちっとするのは勿論、「肉汁うどん」。 大盛りに挑んでしまいましょう。
チケットを手渡してからカウンターで手に取るは、パウチしたシート。 「武蔵野うどんって、なぁに??」とタイトルしてあります。 まだまだ「武蔵野うどん」の認知度は高くないゆえ、 こふいふ丁寧な解説を頼もしく想います。
それ相応の茹で時間を経て、「肉汁うどん」の膳がやってきた。 茹で立て〆立てのうどんは、笊ではなく、漆塗り風の盛鉢に盛られています。
力強さを思う手打ちうどんは、明らかに茶色を帯びている。経験から察するに、 例えば埼玉や群馬産の農林61号の地粉の全割りでうどんを打つとこんな色になる。
武蔵野うどん店の中には、随分と真っ白いうどんを供するお店がなくはないけれど、 それは北海道とかオーストラリアとかの小麦をブレンドしているかららしい。 “真のナポリピッツァ”のように条件や定義が定められているものでもなんでもないので、 兎や角云うのも当たらないのだけれど、 やっぱり、武蔵野うどんは地粉色を帯びていて欲しい。 そんな意味からは、史上空前にまで真っ当な武蔵野うどんと云えましょう。
肉増しにしてもらったつけ汁は、いよいよ具沢山。鰹出汁に豚バラの脂が滲んで、いい塩梅。 所謂、”糧(かて)”に相当する菠薐草もトッピングされています。
そうとなればもう、一心不乱に啜るのみ。素朴な粉の香りとどこかゴワゴワっとした歯応えも地粉うどんの真骨頂。 讃岐うどんみたいなつもりで啜ったひとは吃驚するかもしれません。 でも、これがいいんです。
カウンターにはもうひとつ、 「手打ちうどんの太さが同じにならない理由の書」が置いてある。 機械製麺した場合と麺棒を用いて手打ちした場合とで、 生地の中のグルテン繊維の形成方向が異なることをイラスト入りで説いている。 そして、最後に記述された「夕虹店主のこだわり」コメントがこれまた頼もしい。
“一概に、機械打ち、手打ちのどちらが美味しいなんて言えません。 が、私は、手打ちによるくびれや捻じれがつゆを持ち上げ、 不均一さが口の中で独特の食感や歯応えを生み出すと信じ、 手打ちでうどんをこしゃっています!”。
杉並の住宅地に武蔵野台地の地産地消を実践する、 武蔵野うどん「夕虹」がある。想像するに、粉の入手から苦労をしているかもしれません。 それでも、武蔵うどんたる「肉汁うどん」を日々打ち続ける気概が誇らしい。 また、お邪魔しなくっちゃ。
「夕虹」 杉並区成田東2-33-9 加藤ビル [Map] 03-3315-3145
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