
八丁堀は、鍛治橋通り沿い。
市場通りとの交差点近くにずっとある蕎麦屋が、
「あさだ」。
笹の葉が揺れる脇に品書きの行燈が点り、
丈の短い白い暖簾の中央に”おそば”とある。
引き戸をサッシに直してから多少薄れたものの、
格子の表情なんかに積年の情緒を漂わせてくれています。
お昼をいただいたことは数しれないけれど、夜に訪れたことは最近までありませんでした。

それは、”蕎麦屋で一杯”したいものの、
蕎麦前の酒肴らしきものがに品書きに見当たらないことに起因していました。

冷えひえの寒風に背中を窄めつ、暖簾を払う。
卓上の”お伺い”裏面を改めて確認するも、「御酒」「ビール」はあるものの、
やはり所謂蕎麦前のアテは見当たらない。

こんな枯れた蕎麦屋の一隅で、
蕎麦屋定番の蕎麦味噌や出汁巻玉子、焼き海苔、揚げ蕎麦辺りで、
ちょいと一杯呑りたいところ。
「熱燗」を頼んで訊ねると、「板わさ」ならできるという。

ではではとお願いすると、「富翁」の翠色の硝子の徳利と一緒に届く、
あられを添えたシンプルな角皿。
頭上のテレビのニュースなんかをぼんやり見上げながら、つつつっとして、
山葵を載せた蒲鉾を齧る。
なはは、こふいふのも悪くない。
お銚子一本が空いたら、「花まきそば」をお願いします。


たっぷりの刻み海苔と温かい茶そばの取り合わせに、
なんの文句が御座いましょう。
別の晩には、突き出しの白菜のお新香で麦酒。
「天ざる」の天ぷらで麦酒をやっつけようと目論むも、
そうだそうでした、「あさだ」の天ぷらは上品なボリュームなのでした。


それはそうと、綺麗な翠色の蕎麦であることよ。
たまたま架かってきた電話口でオヤジさんは、明日の晩は吞み会だからさ云々と話してる。
お品書きに酒肴メニューの記載はないけれど、呑めない訳ではなさそうだ(笑)。

さらに別の宵には、「熱燗」と合わせてこう訊いてみた。
「親子南蛮のアタマというか、ヌキ、できませんか」。
するとオヤジさん、はいよ親子のヌキねと云いながら厨房へ。

濃いめの汁に浸った玉子とじがアテにならない理由は御座いません。
もっとじっくり温まって寒風の中に帰ろうと、「力うどん」を所望する。

「鍋焼きうどん」じゃないのかよ!と自分にツッコミつつ(笑)、
こうして普通な感じに安らぐ夜もあるのです。
八丁堀一番歴史を抱えたであろう、そば「あさだ」の創業は、明治25年。

浅田さん一家ゆえの「あさだ」だとばかり思っていたら、そうではないようで、
創業当時、世話になった粉屋さんの名前をいただいた、とかそんなような経緯のものだそう。
店主の苗字を冠したであろう店名には、すぐそのまんまの由来なのだろうと思いがちだけど、
また別のストーリーがあることもあるのだね。
今のご主人で四代目。
厨房を切り盛りしている方が五代目ということになるようです。
今度は勇気を出して(笑)、「小判焼きできませんか?」と訊いてみよう。
「あさだ」
中央区八丁堀3-21-6
[Map] 03-3551-5284
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