それはもう、一年半以上も前のこと。
石垣島の北部でゆるゆるとダイビングを愉しんでいた水中での出来事でした。
島の西側海域と違ってダイバーの少ない北部は、一面の珊瑚の森が実に壮観。
でも、その珊瑚が多数のオニヒトデに陵辱されているのが厭でも目につく。
昼間でもこの数ということは、夜には恐ろしい光景となるのだろうなと思いつつ、憎きオニヒトデを退治せんとばかりに指し棒でオニヒトデをひと突き。
何気なく指し棒を動かしたら、刺していたオニヒトデが棒を伝ってするするっと手の方へ。
あ、あいたた。やっちまった!
ひとさし指の先をオニヒトデに刺されてしまったのです。
それから、オニヒトデの毒針の先が指の中に残る異物感を抱えたまま過ごしていたけれど、鈍く小さな疼痛が続いていたのでした。
こりゃぁいよいよイカンと除去手術を受けるべき、いつもの高輪の病院にやってきたのです。
副院長の診察を受け、手術日を決めた帰り道。
たまには、五反田まで歩いてみようと桜田通り沿いを下ってみました。
五反田駅が近づいてきた辺りで、ちょっと横道に反れてみる。
すると、山吹色のテントが印象的な洋食屋さんが目に留まりました。
洋食、グリル、さんばん。
どこかで聞き覚えのあるような気もします。
やっぱり洋食屋さんにはサンプルケースがなくっちゃねと覗き込むと、
定番メニューに混じって、「ピラフソルティンポッカ」とか「中華風バターライス」といったちょっと変わりダネのお皿もあるらしい。
ふむふむと思いながら扉を開けると、壁の貼り紙が視界に入る。
白い紙にマジックの文字で、「カキフライライス」。
おお、これが呼んでいたのかな(笑)。
早速そのお皿をお願いして、何気なく箸袋をみると、
「グリル さんばん 武蔵小山店、五反田店」と書いてある。
あ!武蔵小山の洋食「さんばん」と兄弟店なのですね。
そうかそうですかと得心しているところへ、「カキフライライス」が到着です。
「新富 煉瓦亭」を想うしっかり揚げ色の牡蠣フライ。
輪切り檸檬を折り畳んで搾り、たっぷり添えてくれているタルタルをのせて大口を開きます。
牡蠣エキス大炸裂!というほどではないものの、ぎゅっと活性した牡蠣の身と香ばしき衣の合奏が、うん、悪くない。
武蔵小山のお店にもあったものなとメニューを捲ると、
当然のように「スパゲッティナポリタン」がある。
それはそれはとふたたび病院の帰り道。
大盛りできますかと訊けば勿論とばかりに早速厨房に戻るオヤジさん。
厨房とフロアを仕切る硝子窓の隅から覗く様子は、フライパンを大きく上下に動かして、しっかりしっかり炒めるオヤジさんの姿だ。
なんだか妙に期待が高まったところへ端正なステンレス皿がすっと来る。
慌て気味にフォークを動かすと、ああ、これは何気に旨いナポリタンだ。
ケチャップに必要な火が入ってとろみ適度に丸い味になり、炒めの香ばしさが優しく迫る。
そこへオヤジさんの所作を思い浮かべれば、さらに納得の味わいになるのだ。
メニューには、「ポークソテー」や「ポーク辛味醤油焼き」は載っているけど、
「しょうが焼き」は見当たらない。
どうなのだろうとオヤジさんに訊ねると、即答ひとこと「できますよ!」。
然らばと、今度は会社帰りに桜田通り。
「しょうが焼きを」と告げると、ほいきたとばかりに豚肉に包丁を入れはじめるオヤジさん。
ああ、なんだか美しさを想うしょうが焼きがやってきた。
ボリュームたっぷり、甘さを含んだ生姜タレのしっかりした風味。
結構イケると思うのだけど、どうだろね
Gingerちん?
桜田通りから池田山側に外れた静かな裏道で今日も鍋振る、洋食「さんばん」五反田店。
訊けば、武蔵小山の大将が師匠にあたるンだそう。
その師匠が大の長嶋ファンだったことから店の名を「三番(さんばん)」としたんだって。
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「さんばん」五反田店
品川区東五反田4-10-6
[Map] 03-3442-6945
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