本所吾妻橋に貝尽くしの居酒屋があるという。
新川のあの店で牡蠣づくし、なんても手もあるぞと選択に悩みつつ、やっぱり気になる貝づくしをとまずは浅草を目指します。
浅草は吾妻橋の五叉路から隅田川の向こうを眺めれば、アサヒビールの例のモニュメントが否が応でも目に留まる。
吾妻橋を徒歩で渡るのは初めてかも~と話しながら進むと、アサヒビールの建物向こうに暗闇ににょっきりと浮かぶ工作物が視界に入ってきます。
うん、スカイツリーだね。
お目当ての貝料理「海作」は、浅草通りが清澄通りと合流する辺り。
iphoneのMap頼りに進んだら、とんちんかんに行き過ぎ戻りつしの到着です(笑)。
座卓について迎えてくれるのは、栄螺あたりの蓋を貼り合せてつくった箸置き。
貝料理の店らしい細工が嬉しいな。
麦酒を貰ってまずは、煮物から「床伏」を。
雲見あたりの西伊豆で潜って幾つかを獲っていただいたことを思い出す(漁師さんごめんなさい)。
じっくりと柔らかく煮付けた床伏が滲ませる滋味がいい。
「トコブシ」も「床伏」と書くとなんだか一層乙なものに感じられるね。
あれこれ迷って困るので、貝のお刺身は盛り合わせにしてもらいます。
ゆっくりと運んでくれる女将さんの足元を心配しつつ受け取ったお皿には、さざえ、とり貝、北寄貝、白みる貝、帆立、赤貝に平貝。
ホヤは天然モノではないかもねと思うのは、外側にはっきりした突起がないから。
それは、青森料理の店「なか村」の女将さんの解説による。
「焼き牡蠣できますか?」と訊ねてOKの、ひとりひと皿。
どこかウミウシのような顔つきだなぁと秘かに思いながら(笑)、ちょっぴり檸檬を搾って、一気にちゅるんとゆく。
まだ最高潮のぶりぶり状態には早いみたいだけど、うんうん、滋味滋味。
そこへ届いた「焼き蛤」。
生でもいいんだけどね的に火を入れ過ぎないように炊いた蛤にほんの数滴の醤油を垂らしていただけば、はふはふ、むほほ。
さざえには、「つぼ焼き」と「丸焼き」とがあって、100円安い不思議を女将さんに訊ねながら、「つぼ焼き」を。
こりっとさくっとした身を美味しく平らげたら、その身が浸っていたつぼの中を改めて覗き込む。
そこに残った汁をどうしても啜りたいと思う、この衝動を誰が嗤えましょう(笑)。
「一品料理」の中で気になったのが「みそ玉焼き」です。
なにかの貝の身に赤味噌か田舎味噌あたりをこってりのっけて炙り焼いた感じなのかなぁと想像するも然にあらず。
女将さんの指令は、蓋をしたまま1分ほど焼いて、一旦掻き混ぜてからまた1分ほど蓋をして焼いて、そのあとは火が消えるまで混ぜまぜしなさい、と。
陶板に載せた貝たちの真ん中に玉子が配してあって、玉子でコーティングするように火がすっと通れば出来上がり。
ああ、仕込んであった白味噌の風味が味わいに輪郭を添えて、お酒のピッチが上がります。
壁の黒板メニューから選んだのが、「カキの甘辛揚げ」。
旨みをぎゅっと閉じ込めるように揚げた牡蠣が甘辛のタレにたっぷりと浸って、なんともイケる。
お酒にもご飯にもテッパンな、ズルい逸品であります。
そこへ、ちょっと珍しいフライがあるよと「北寄貝フライ」。
牡蠣フライの魅力には及ばないけど、これはこれでいいね、面白いね。
コキールは定番の帆立で。
ベシャメルのクリーミーと帆立の相性は、誰もが合点のいくところ。
も一度登場のコンロには、今度は昆布が載っている。
盛り合わせの貝たちの「昆布焼き」だ。
牡蠣に蛤に北寄貝、平貝に、解けた輪切りは「あげまき」か。
ふつふつとゆっくり火が通るにつれ、
昆布の香りも色を濃くしていきます。
争うようにして(笑)、ハフハフつるん。
すいません、牡蠣、いただきます、使命なもので(?)。
〆にと「貝飯」をお願いしたら、今日はないのよーと女将さん。
ないと知るとますます恋しいと身悶えしつつ、ならばと「貝雑炊」をお願いします。
ホロ酔いになりながら最後まで貝づくしで堪能できるなんて、
なんて倖せなのでしょう。
本所吾妻橋の貝料理屋、その名も「海作(かいさく)」。
ありそでなさそな貝づくしのお座敷は、貴重な存在ではありませぬか。
下町の良さを漂わす女将さんがいつまでもお元気でありますように。
口関連記事:
青森料理・割烹「なか村」で 田酒呑る素焼みずしゃこほや亀の手
「海作」
墨田区吾妻橋1-6-5
[Map] 03-5608-3900
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