そして、夜の池上本門寺通り。 硝子ブロックの横の古びた扉。 とうとうその扉に手を掛けて、開けるよ!の相槌とともに引き開けました。 店内は小ぢんまりとして、コの字のカウンターが迎えてくれます。そのコの字の真ん中に佇んでいるのが、マスターである平野さん。 かなりの先輩であることは間違いないけれど、まだまだ艶を失っていない、そんな表情が印象的です。 マスター正面のカウンターに座り込んで、”当店の逸品”を書かれたメニューをしげしげ。 「スパゲティ アフロ風」とか、野菜ゾースイと但し書きのある「サビニオ」とか、野菜炒め物と補足した「ピラペラ」とか。 「にんにくとうふ」にサラダ「ガスメダ」、「温麺(白石そーめん)」も気に掛かる。 でも、まずはやっぱり、店のファサードにも謳っていた「PIZZA」をお願いしなければいけません。 奥のレンジの前あたりで「PIZZA」の段取りを進めてくれているマスターの背中を眺めながら舐めるのは、「トリス」のハイボール、300円也。 品書きにある、「洋酒天国」というフレーズもいい。 柔らかな匂いと一緒に「自由雲」謹製「PIZZA」がやってきました。 トマト色の玉葱が浮かぶ断面を凝視しつつ、コルニチョーネとはまた違う、ふっくらした縁から支えるように手にして口へ運びます。むほほ。 玉葱の甘さがいいでしょいいでしょ、と味蕾を擽って、いい(笑)。 三種類のスパイスを使っているんだよとマスター。 とろんとしたチーズは、マルボチーズというデンマーク産のものらしい。 なんだか真っ直ぐ優しい美味しさのするピザなんだ。 二杯目にと「響」をまたまたハイボールにしてもらいます。 比べ呑むようにすると、風味の違いがはっきりしていて面白いね。 もうひと皿お願いしていたのは、ちょっとお時間掛かりますの「じゃが グラタン」。 小麦粉たっぷりのベシャメルとは違う、さらりとした中に塩梅のいいコクがあるソースにジャガイモのほこほこがしっとりと馴染んで、なんだか気持ちがほっこり安らぐような美味しさのするグラタンなんだ。 マスターが調理のための缶あれこれを置いている棚の脇の壁にはこうある。 「1956年壽屋チェーントリスバーとして発足、サントリー城南地区チェーンバー今日になりました、元気にガンバリますご愛顧ください」。 もう創業から半世紀以上のお店なんだね。 問わず語りのマスターのお話に耳を傾けると、 青山に生まれ育ったというマスター平野重太郎さんは、21歳にして戦地満州へと赴き、内地に戻ってから浜口庫之助のジャズバンドでベースを弾いていたんだそう。往時の味あるモノクロ写真が入口近くの額で拝見できます。 大阪ミナミの「銀馬車」で演奏したことや力道山とのエピソードも。 メニューにある「アフロ風」というのはきっと、バンド「浜口庫之助とアフロクバーノ」に由来しているんだね。 こないだねぇ、とマスター。 とんねるずのふたぁりと何人かが番組の取材に来たンだよ、と。 あぁ、それは「きたなシュラン」だ!と壁にペレのサインを探すと、あったありました(笑)。 近日中のOnAirのようですよ。
創業来半世紀の味あるサントリーラウンジ「自由雲(じゅん)」。表のメニューにあるように、「じゆううん」ではくて「じゅん」と読む。 優しい懐かしさに包まれたい気分の宵口に寄るのがオススメです。 御歳80歳代のマスターに会いに、ね。 伺い損ねた、店名「自由雲」由来も訊いてみたいんだ。
「自由雲」 大田区池上4-31-20[Map] 03-3751-9292
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