栄・伏見界隈の「どて」の有名店「島正」をランチに訪ねた帰り際。
「島正」が入る古い雑居ビルの奥への通路の入口に「味噌煮込みうどん」と記した黄色い張り紙があるのが目に留まりました。
古びたパイプ椅子の背に立て掛けられた、その紙の脇に小さく「栄」と書いてある。
どこのお店のことかいなと急に好奇心が頭を擡げきて、暗い通路の奥へと進むと、なるほど八丁味噌の香りが漂ってくる。
その匂いを追うように狭い階段を地階へ 。
妖しさ芬々の階段の踊り場から正面にしたのが、その在り処を右手へと示す「スナック栄→」の看板でありました。
緑地に青の文字。赤から黄色にグラデーションする矢印。
開け放ったドアの中を恐る恐る覗くとそこには、如何にも昭和からのスナックな風情が匂う光景。
今度ここで味噌煮込みを食べなくちゃ!と妙な決心をしたのでありました。
それから幾許かの月日が流れ、ふたたびやってきた桑名町通り。
「島正」の脇にあの時と同じ張り紙を発見。
お誘いした諸先輩(怖いからって訳じゃないよ)と一緒にあの狭くやや暗がりの階段を降りていきます。
なぜか、ちょっぴり忍び足(笑)。
でも、こふいふ時は躊躇してはいけません。
エイ!とばかりに、ドアの中に入ると、意外や先客が少なからずいらっしゃる。
促されるまま、過ぎ去ったあの頃を思わせるビロード風のソファーに腰を下ろしました。
作務衣っぽい井出達の女将さんが「味噌か、カレーか、どちらにします?」と訊いてくれる。
バックバーでは、招き猫が何体も左手を挙げている。
「味噌!」「味噌!」「カレー!」。
注文を終えたそのあとから、ちょこちょこと客が訪れて、入れないお客さんまである状況。
意外と人気店だったりするのかしらん。
はい、おまちどうさまーと、くつくつ煮え立つ土鍋を載せた膳がやってきました。
湯気の中、玉子の廻りに斜め切りした葱がたっぷりと浮かんでいます。
その葱を掻き分けるようにしながら、褐色に映るうどんを引っ張り上げる。
味噌煮込みうどんらしく、”形状記憶うどん”ではあるものの、必要以上の硬さもなくて、程よい加減。
うどんが浸っている汁は、八丁味噌の酸味控えめで、とろみもマイルドな仕立て。
いいんじゃないでしょうか。
女将さんは、小さな茶碗にご飯をもってきてくれたかと思ったら、 順繰りに、サラダの小皿、煮物の小鉢、お新香にフルーツを運んでくれる。
置き場所ないね、適当に置いとくね、と女将さん。
お店の器や設えはすっかり町場のスナックだけど、女将さんのノリやお膳の上はまるで、味噌煮込みを出す小料理屋さんのようであります。
「島正」の地階には、
味噌煮込みうどんを供する、見かけちょっと妖しいスナック「栄」がある。
あの女将さんが夕闇以降にはどんな”ママ”に変身するのかは、見たいような見たくないような(笑)。
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お食事「島正」で ランチのどてめしオムライスに味噌おでん定食(10年03月)
「栄」
名古屋市中区栄2-1-14
[Map] 052-201-2968
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