西武新宿線の狭山市駅。
もう3駅乗れば終点本川越駅に至るこの駅に降り立つのは、いつ以来だろう。
橋上駅舎化工事が進行中とのことで、東口の駅ビルは解体されているらしい。
その東口とは逆の西口を出て真っ直ぐ向かうは、県道50号線。
麗らかな春の陽光の中、通りの向こう側に見つけたのが、サイディングの壁に大きく書かれた、
「多寿満」の文字です。
通りを渡り、脇道を覗くと、仮設のプレハブにも思える四角い箱の横面には、さらに大きく「うどん」とある。
そして、入口のアルミサッシの先には、テント地の幕が留められていて、堂々こう標されています。
農林61号で造る手打ちうどん三五〇円。
なんとも味わいのある佇まいではありませんか。
暖簾の向こうは、雑然として使い込まれたカウンター。
揚げ油の匂いに出汁の匂いが混じります。
目的は勿論、武蔵野うどん。
渡してくれたメニューをどれどれと探ると、「肉汁うどん」ならぬ「肉汁きのこうどん」がある。
きっと、つけ汁モノで、これが一番武蔵野うどんらしいかな。
他には、「もりうどん」「たぬきうどん」「カレーうどん」やちょっと変わり種の「麻婆豆腐うどん」「韓国チゲうどん」、「釜上げ納豆うどん」「モツ入り鍋焼きうどん」なんてのもある。
うどんばかりでなくて、「生姜焼セット」「カツカレーセット」「麻婆豆腐セット」といったうどんセットや酒の肴的な一品料理もあるんだね。
「肉汁きのこうどん」を大盛りでお願いして、のんびりと卓上のテレビデオを眺めながら出来上がりを待つ。
すぐ出てこないのは勿論、注文を受けてからうどんを湯掻いているから。
何の気なしにメニューを改めて眺めたら、天ぷらの項の「かき揚げ」50円というところに目が止まる。
50円とは安いなぁきっと小振りな掻き揚げなんだろなぁひと口揚げ物も欲しいかなぁと思い付いて、追加してもらいます。
「お待たせしましたー」とカウンター越しに受け取ったお膳には、
うどんの笊が二段に。
おお、大盛りは笊二枚になるんだと思った次の瞬間には、50円掻き揚げの大きさに秘かにびっくりしたりする(笑)。
お椀にたっぷりと注がれた肉汁きのこはまさに具沢山。
そこへお待ちかねとばかりに笊のうどんをとぷっと漬けてズズっと啜る。
慌てた所為か、眼鏡に汁が飛ぶ(笑)。
おおおおお、やや甘い汁に浸ったバラ肉としっかりと粉の味のするうどんの組み合わせは、間違うことなき武蔵野うどん。
この地粉の風味あってこその武蔵野うどんであるなぁと改めて感じ入る。
こうでなくっちゃと思わず頷いている自分に気がついたりして。
想定外に大きかった掻き揚げを挟みつつ、二枚目のうどん笊に取り掛かる。
ズズズ、ズズ。
確かな噛み応えのあとに旨みを伴う粉の味わい。
ただコシつき命のうどんより、ボクは断然こふいふうどんが好き。
いいなぁ、旨いなぁ。
狭山の県道沿いで、県産の農林61号の小麦粉に拘った武蔵野うどんがいただける、
手打ちうどん「多寿満」。
一瞬顔を出した白髪髭面のおとうさんがきっと店主の田島さん。
会計の時、その「弁天」という農林61号を小口で買えるお店を知らないか尋ねたところ、ちょっと待っててと奥に引っ込んだおかあさん。
1キロくらいあるから持って帰りなと袋を渡してくれた。
おいくらでと訊くと、いいのいいのとおかあさん。
いや、あの、そんなつもりじゃないのですけど、ではありがたくいただいていきますとお礼を告げて帰路につく。
なんだかとってもあったかい気持ちになりました。
「多寿満」
狭山市入間川1-15-8
[Map] 04-2953-6785
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