column/02921
すし居酒屋「樽」で 鮭児しじみ汁三厩鮪青森誇る魚介田酒を供に
荒天のため別の空港に行き先を変更するか、羽田引き返す可能性があります。
寒波が襲う青森へと向かう機内で、キャビンアテンダントのアナウンスはそう告げていました。
雪雲を抜けて真っ白い滑走路に降下したAB6機。
無事到着したブリッジからみる青森は吹雪だ。
その吹雪の中、青森にすっかり根を下ろしたtakapuが迎えてくれました。
凍てついた一本道を北へ上って辿り着いたのは、青森県庁の近く。
路地を覗けば、味のある風景。
サクサクと雪を踏み締めつつ歩みを進めて前にしたのは、「樽」と記す白い暖簾だ。
入って右手には一升瓶を収めた冷蔵庫。
左手カウンターの硝子ケースの先の棚でも日本酒たちが賑やかにしています。
「ときしらず中骨」「ますのすけのはらす」といった「中骨」「はらす」の章から始まる、経木に細かく書かれた品書きの上を「おお」「おー」「うぉー」と唸りながら右へ左へと視線を泳がせているところへ、お通しが届きました。
お通しなのに小皿が三つも。
ねっとりした甘みが堪らん津軽海峡のヤリ烏賊の醤油漬けに鱈白子。
そして、津軽のもずくを山葵醤油に漬けたもの。
石垣島のダイビングボートの上で啜るもずくも逸品だけど、北の地居酒屋で啜るもずくもまた乙なのだと知ることとなるのです。
早速、青森のお酒を「田酒」の「古城の錦」をいただく。
凛と華やぐ香りと芯の強い風味に目を閉じる(笑)。
takapuがやっぱりこの辺りからと経木から読み上げてくれたのが、
「清水川なまこ酢」に「十三湖しじみ汁」。
陸奥湾の清水川で獲れる海鼠が秘かに有名らしく、コリコリ食感の向こうから澄んだ冷水に潜むような旨みをひたひたと伝えてくる。
これまた青森で蜆と云えばまず、十三湖産の名が挙がる。
仄かに白い汁を啜ると、蜆の濃いぃエキスの魅力が真っ直ぐ味蕾に広がって、嗚呼なるほど余計な味付けは不要で、塩少々で十分なのがよく判る。
ひとりで全部飲み干してもいいかな(笑)。
そこへお願いしていた刺し盛りが届いて、思わず「おおおおおー」。
大振りな角皿一杯に鏤められた宝石たちは、全十二種類。「田酒」のグラスを脇に構えて、いざいざ(笑)。
虎模様の皮目をも魅せる生鯖に、ヒモもお酒を進ませる帆立、
そして白身に潜む甘みが泣かせる細魚。
幻の鰈とも云われる松川カレイにアカメフグ、そしてそれはズルいよのカワハギの肝和え。
繊細な脂のおこぜの隣には、
松かさな皮目も鮮やかな釣りきんき、そして昆布じめの鮟鱇。
生たこ吸盤のコリシコを愉しんでいよいよ挑むは、
三厩(みんまや)の本まぐろ。
大間ばかりが名を馳せているけれど、同じ海峡の、竜飛岬近くの三厩に上がる鮪もきっと引けを取らない。
細やかに整ったサシの肌理には黙るしか対処の術がありましぇん(笑)。
そして、これぞ幻の鮭と名高い、知床羅臼産の「鮭児」。
口の中に含んだ途端にすっと消えていくような脂はどこまでも澄んでいて、残り香のような旨みの余韻が続く。
うひゃひゃ、こりゃ堪らん(笑)。
「田酒」づくしでお酒をお願いしていたら、
これは如何と観音開きの化粧箱に入った純米大吟醸を薦めてくれた。
酒米の最右翼「山田錦」の母親にあたる「山田穂」で醸った一本と父親にあたる「渡船」で造った一本を仲良く組み合わせた、つまりは山田錦両親の酒。
呑み比べ、愉しそうとウキウキとしたのも束の間、あろうことが箱を倒して日本のうちの一本を倒し落として割ってしまった(泣)。
もう手に入らないという稀少な一本を床に吸わせてしまって、大将ほかお店の皆さん御免なさい。
しゅんとしながらも、山廃純米の「びん燗 田酒」をちびちびいただいて、
「本まぐろの目玉焼き」の目玉の廻りをほじほじ。
パリっとした皮とそのすぐ裏に潜む脂が協演する「刺身用ときしらず焼き」をほじほじしては、またグラスをちびちび。
う~ん、いいなぁいいなぁ。
県庁近くの路地に潜む、青森魚介の魅力に満ち溢れた居酒屋「樽」。
土地のひとは勿論のこと、旅の者と聞けばより歓迎していくれる心意気が嬉しいところ。
青森の魅力を是非知って帰路についておくれ。
頼り甲斐のありそうな大将の表情には、そう書いてありました。
「樽」 青森市古川1-20-11[Map] 017-773-9955