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大衆割烹「赤津加」で 鶏もつ煮込み熱燗牡蠣鍋年季に包まれて
秋葉原での所用の後、新宿方面で呑み予定がキャンセルになって、はてどうしたものかと所在ない状況に。
そこで思い付いたのが、
電気街の直中にある居酒屋です。
古い宿屋のようにも見えるくすんだ白壁に浮かぶ文字は、大衆割烹「赤津加」。
強い照明に照らし喧噪を煽るような周囲の状況と、
そこだけ時間がゆっくり流れているような佇まいと、
そんなコントラストが面白い。
冬の風に揺れる幟には、「酒泉 赤津加」とある。
脇道から暖簾の前に廻りましょう。
引き戸を開けると目に飛び込むのが、年季の入ったコの字のカウンター。
その角には、命を宿していた頃の勢いを思わせるような柱が滑るようにテカッている。
左奥に座敷がひと間覗けて、その左手にテーブル席がある。
その一角を占拠していたのが、白人のお客人たち。
「最近多いのよ~」とは姐サンの弁。
電気街を彷徨った後は居酒屋に行け!と観光ガイドにでも書いてあるのかしらん(笑)。
お品書きから、まずはやっぱり、煮込み。
「赤津加」の煮込みは、「鶏もつ煮込み」。とろーんとしながら後味あっさりで、沁み入るような旨味。
お豆腐のハフハフもまたいい按配であります。
足元に残る冷えを思えば、さも然りと燗酒を。
目の先の酒燗器で温度を上げていくのは、「菊正宗」の本醸造らしい。
お猪口を右手に、つつつーぅ、っと。
このほんの少しひりつくような、ひと口めが燗酒の醍醐味のひとつだ。
えーっとお次はとお願いしたのが、「まぐろたたき豆腐」。
姐さんは、「お豆腐+お豆腐になっちゃうけど、いい?」と気にしてくれた。
豆腐半丁ほどに、中落ちっぽくたたいた鮪の赤身が載っている。
つまりは冷や奴と鮪赤身を一緒にいただける肴ってことで(笑)。
お猪口でつつつーを繰り返しつつ、さらに姐さんにこう所望した。
「牡蠣鍋、一人前でもいいですか?」「大丈夫ですよー」。
「豆腐+豆腐+豆腐になっちゃいますねー」と云いながら、だはははーと一緒に笑う、
そんな呼吸がいい。
コンロの鍋が次第に沸いてくる。
ハフハフ、つつつー。こうなるともうなんの説明もいらない感じになってくるよね。
ハフハフ、つつつー。
あ、徳利が空いてしまった。
姐さんに「焼おにぎり」をと告げて、店内のざわめきの中にほろ酔いの身を浸す。
「牡蠣鍋」の鍋を下げようとする姐さんに頭を振ると、「あ、鍋の残り汁を焼きおにぎりの相方にするつもりだな」と悟ってくれたらしく、「了解ぃ」な所作で応じてくれる。
遠火でじっくり焼いてくれたのか、香ばしさに念の入った焼きおにぎり。おにぎりを齧り、鍋の汁を啜りしながら、我ながらいい作戦だったとニンマリしていたら、姐さんと目が合った(笑)。
そうして、はしたないくらいに鍋の汁を完飲しての、お愛想です。
大衆割烹「赤津加」の創業は、昭和29年のことだという。
白壁の二階建ては、たとえ電気街の喧騒に埋もれそうになっても、白人観光客が大挙して訪れても、どっこいその頃から以上の年季を包んだままのような、そんな気分にさせてくれます。
「赤津加」 千代田区外神田1-10-2 [Map] 03-3251-2585