column/01763
手打そば「木挽町 湯津上屋」
2週間ほど前、「山岸食堂」にお邪魔した後の道すがら。路傍に置かれた、灯篭のような不思議な標に誘われるようにその路地を覗くと、清々しくも小粋な佇まいが見て取れ、気になっていました。藍色の暖簾を払うと、小体ながら店主の心意気がじんわり伝わるような気持ちのいい造作に包まれます。入口左手の打ち場を横目に、正面のカウンターへと案内されました。一冊づつ手書きされている「おしな書き」から「鴨汁」をお願いします。外皮の粒が混ざり込んでいて、ほんのりとした野趣を孕んだ蕎麦だ。香りは伝わってこないけれど、艶やかで喉越しも悪くない。濃い口ではなく、出汁の旨味を丁寧に仕立てたようなつけ汁。柔らかいままの鴨肉がいい。炙った葱で力強さを添えてくれたらもっといいかもしれないな。替えせいろなどではなく、150円で大盛りにしてくれるのも好感だ。温かいもの、の中にある「地獄」とは、釜揚げのことだそう。厨房での無駄のない所作が気持ちのいい店主は、塩原にあるという蕎麦店「湯津上屋」のご息子らしい。奥様と思しき女将さんとの立ち姿も店の雰囲気にぴったりとくる。「木挽町 湯津上屋」には、如何にも蕎麦屋らしい酒肴が揃う。その中から数品と燗酒、そして手繰る蕎麦でさっと退ける、そんな夜も粋に似合いそうだ。
「木挽町 湯津上屋」 中央区銀座1-22-14 03-3567-0838