column/02119
京料理「凹町」
恵比寿神社近くにある「凹町」で夕食を。繊細な格子戸から覗く店内は、白木の風合いが全体を包むようにして、そしてほんわりと京町家のイメージを醸しています。奥へと伸びるカウンターの一番手前へ案内されました。奥には個室も設えてあるようです。食前酒にと切子のグラスに注がれた梅酒。ふた口三くちほどのお茶漬けに続いて、春らしい梅の小枝をあしらった八寸がやってきます。お雛さまを念頭に魚のすり身を三色の菱餅風に仕立てたり、苦味がオトナな蕗の薹の天麩羅、そして白魚と春の息吹を感じさせるプレートになっている。続く椀ものはというと、すっぽんのひろうす。すっぽんの身の織り込まれた飛龍頭も然ることながら、敷かれたお出汁から広がる深い滋味が堪らんね~。ほっこりした気持ちになったところへ、帆立、笹鰈などのお造りに、小鯛の笹づけ手毬寿司などの載った平皿。そして、このこ(=海鼠の卵巣)などを添えて、味噌柚庵焼きの牡蠣、炙ったいかなごが松葉に載って届きます。旨味を閉じ込めるように柔らかく焼いた牡蠣が、旨い。すっかりお酒の気分になって、おススメの純米吟醸「醴泉」をいただく。華やぐような円さの中にきりっとした芯がある、佳い酒だ。たら、白子、聖護院大根のお椀でさらに温まり、そして土鍋の出番となります。土鍋で炊いた「はえぬき」の、炊き上がった直後、ほどよく蒸らした時点、そしておこげを交えて、さらには番茶に浸してとご飯の色々な表情を楽しませてくれるんだ。〆には、京人参のムースをはじめとした水菓子に続いて、若き黒岩氏の手作りだという和菓子がいただける。金箔を頂き白いんげん風味がそのままに伝わるものや黒蜜あんのお団子に、入口すぐに据えられた茶釜のお湯で立てた抹茶が添えられる。あ、入口脇の小窓も凹型なンだね。訊けば、京都の木屋町あたりのイメージと重なったこともあってこの場所を選んだそうだ。路地の奥の情緒や包み込む様な居心地の佳さなんかを“凹”に籠めているのだと云う。はんなりとした気持ちにさせてくれるお店が、身近な恵比寿にできました。
「凹町hokocho」 渋谷区恵比寿西1-9-4 03-5728-7655