訪れた鹿苑寺境内は、 もう陽が西に傾き始めている時分にも観光客で賑わって。舎利殿「金閣」の屋根の天辺に据えられた鳳凰にも西日が当たって、 眩しく煌めいていました。
河原町界隈をちょっと散策してから向かったのは、 祇園四条の南座の脇から下った川端通り沿い。 タクシーの車窓から目に止めて気になったお店の名は、「一平茶屋」です。
店先に「水」と彫り込んだ、井戸らしき設え。 雨風にちょっと傷んだ犬矢来。 枯れた風情がいい感じに郷愁を誘います。
店内も外観のイメージにぴたりと符合する味わい。白い布カバーを掛けた椅子、テーブルは、やや武骨にも映る表情です。
盛夏の時季ゆえ、 「鱧しゃぶしゃぶ」をメインとした「夏のおすすめコース」でいくのが順当なところと思うものの、 このシーズンにもいただけるという「かぶらし蒸し」も気に掛る。 「夏のおすすめコース」に「かぶら蒸し」を添えたコースにすんなりと応じていただけました。
お麦酒をいただいたところに届いた先付けは、「長芋そうめん」。そうめんに仕立てた長芋の繊細さに添えたじゅんさいの涼味がいい。
八寸には、鱧寿司や蛸のやわらか煮、などなど。 冷やのお酒がいいねと所望すると、 背後からテンポのいい粋な音が聞こえてきた。シュッシュッシュッシュッ。 ああ、鱧の下処理、骨切りをしてくれているのだね。 骨切りする板前さんの背中を拝める機会ってそうないよね。
そしてそのお造り、「鱧落とし」。綺麗に華開いた鱧の身をそっと箸の上に載せ、そっと口に含めば、 うんうん、細やかに解ける身からほの甘い旨みが弾ける。 鱧に梅肉を添えるのは、誰が最初に思い付いたことなのでしょう。
続いて、追加してもらった「かぶら蒸し」の器が届きます。とろーんとした葛のあん。 匙の先を差し込むのを一瞬躊躇うも、えいっとして掬って口元へ。 蕪の自然な甘さとあんの出汁。 中に仕込んだ白身は、甘鯛でしょか。 ほんの少し魅力がぼやけて映るのは、冬のものを夏にいただいているからに他なりません。
夏の風物に戻って(笑)、「鮎の塩焼き」。鮎の肝の苦みもオツだけど、 何気に添えた潤香(うるか)とチーズにも冷やのお酒を呼ばれます。
女将さんがそう言い添えてくれた「瓜の雷漬けと鯖の飯寿司」。なるほど、瓜の漬物がびりりと辛い。 ふたたび聞こえていた骨切りの音をBGMにしていたら、 出汁を張った土鍋がやってきた。 松茸や湯葉と一緒に大皿の上にあるは、骨切り処理を施した鱧の身。 澄んだ桜色がなんて綺麗なのでしょう。
見惚れてばかりでもいかん(笑)と、そっと出汁の中に差し入れ軽く泳がせると、 忽ち華咲く鱧。昆布の旨みを潜った鱧の身もまた粋なもの。 ゆっくり丁寧に咀嚼したくなるであります(笑)。
華開く鱧を平らげたあとには、 しっかり松茸の香りの移った出汁でにゅうめんに。秋の気配を思わせる葡萄と梨の水物で、 ささやかな大団円で御座います。
川端四条下ル、大正時代から続く京料理の「一平茶屋」。今のご主人で四代目となる「一平茶屋」には、家族経営の良さと朗らかさがある感じ。 気鋭の割烹にはない、ゆったり流れる時間を愉しめるよな気がします。
「一平茶屋」 京都市東山区宮川筋1丁目219 [Map] 075-561-4052 http://www.eonet.ne.jp/~ippeizyaya/
column/03303
夏の京都。蒸し暑い。
この言葉しか浮かびません。
何度もひどい目に遭っております。
もっとも今年は猛暑ですから、日本中どこへ行っても同じですね。
かぶら蒸し=寒い季節と思っていましたが、9月でも頂けるお店があるのですね。
写真を見ていたら京都に行きたくなりました。
でも、涼しくなってから♪
こちらは「天壇」の近くでしょうか?
見覚えがあります。
「一平」という名の知人がいるので、記憶に残っています。
Re:Rさま
そう、「天壇」本店の並びです。
やっぱり、欲張って季節の違うものをいただくのはあんまりよくはないと、ちょっぴり反省もいたしました(笑)。