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小料理「都川」で 懐かしさの会話と釣り鮎塩焼き鹿の背ロース
新橋での思いがけない出会いから暫く。
たまたま訪れた雑居ビル二階のお店の女将さんが、
勤め先草創期の関係者だったという「都川」。
昔を懐かしむように話すその時の会話の中にも頻繁に名前の出ていた、往時のキャストをお連れすることになりました。
階段を登り引き戸を開けると早速、「ひぃえ~、Aさん?」「あれぇー、I さん?」とあらかじめ知らせてはいたものの、驚くような懐かしいようなそれでいてちょっと恥ずかしいような女将さんのリアクションが愉しい。
手作りな新装なったカウンターに並んで座り、まずビール。
話題の主と乾杯したものの、その女将さんが当時の誰だったのか、訪れた方の頭の中にかつての映像がすぐに描けないご様子。なにせ30年以上も昔の話なので(笑)。
「タマちゃんと呼ばれていたのよー」と女将さんが云えば、「あー、タマちゃん!」と応えながらまだ判然としないのか、その頃に廻りにいたヒトたちのことを断片的に思い出しては膝を打って、パズルを繋げていく。
そんな会話が行き交うカウンターには、夏野菜がゴロゴロしています。
白黒揃ったホッピーの白をいただいて、
肉厚な切り口から香り立つ鰹の叩き、凝縮した旨味をタレが引き出すさんまの甘露煮、鰹節たっぷりでいただく焼き茄子。
丹沢から持ち込む素材を使った代表的メニューが、「釣り鮎の塩焼き」。皮目の香ばしさは繊細で、その身はやや痩せているようでも、それが反って清流の恵みらしさを醸しているよう。
意表をつく酒肴がブルーベリー。デザートにはなってもツマミにはならんでしょうと云いながら一粒抓まんでグラスを傾けると、あら不思議。甘さを含む酸味と香気が焼酎にもすっと馴染んでアテになる。
そしてやっぱりここへ来たらと鹿肉料理。味噌ダレで焼いてくれた鹿の背ロースは、妙なクセなんて微塵もなく、でも澄んだ野生の風味が紛れもない魅力だ。
カウンター越しに続く会話は、同じところをぐるぐるしながら(笑)も、段々と往時のさまざまなことの輪郭を強めていく。横で聞いている方でもその頃の出来事の光景が脳裏に浮かんでくる。
聞けば聞くほど、いい時代だったのですね。
懐かしさを共有しながら、その後の紆余曲折にも触れて話してくれた「都川」の女将さんは、かつて築地仲買の帳場にもいたという。そして、「銀座にお店出すのが夢なのよね~、バカよね~」と笑う。銀座で小奇麗で気取ったお店になっちゃうくらいだったら、新橋の路地にずっといてくれた方がいいンだけどな。
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「都川」 港区新橋4-15-3 2F 03-3437-1090