中央線各駅停車は、運行系統の通称でいうところの”中央・総武緩行線”の一部であるらしい。
中央線というとどうもまず、新宿から三鷹辺りまで間を思うのだけれど、そこにおよそ共通するイメージとして、駅前に闇市の名残りのようなエリアがあって、それが魅力のひとつとなっている街々が中央線沿線だと思ったりもする。
ニシオギ南口の「戎」の一軒で一杯ひっかけてから、
ひと駅乗って荻窪駅を北口へ出る。
青梅街道を四面道方向へと向かい、
杉並公会堂の先辺り。
行き過ぎ戻りつして折れ入った横筋に、
「商い中」と示す木札を見付ける。
恐る恐る軋む階段を上がったところが、
今宵の止まり木「ゆき椿」なのでありました。
先陣のおふたりに遅れを詫びつつテーブルへ。夏が往くのがまだまだ惜しい頃ゆえに、
口開きにいただいたお酒は、
胴ラベルにかき氷の幟よろしく”氷”の文字を示した、
吟醸原酒「まんさくの花」。
銀座松屋裏の「野の花」を思い出しつつ、
「みずの実のお浸し」の滋味と歯触りを愉しんで。かち割り的ロックで呑る「まんさくの花」と合わせて、
夏から秋への季節の狭間を感じます。
ありそでなさそな一品が、
あの皮目の模様もくっきりの「小肌のフライ」。柴漬刻んだピンクのタルタルをちょいと載せていただけば、
酢〆に思う繊細で独特な風味がフライでも儚く過ぎる。
むほほ、小肌はフライでも美味いのね。
これまたありそでなさそなお皿が、
「桃と海老の白和え」。桃を酒肴に仕立てようと思案すると、
成る程、白和えに辿り着くんだという感心のする。
刺し盛りの三種盛りをお願いすると、
今宵の出座は、めじ鮪に太刀魚に鱸。太刀魚の皮の際の歯応えなんてのも、
なかなかオツなものなのでありますなぁ(笑)。
フレッシュな一升瓶には「栓が飛びます」なんて、
赤文字で示した札が下がってる。鯵ならぬ「新秋刀魚のなめろう」が、
そんなお酒に似合わぬ訳がありません。
届いた春巻をよく見ると、
巻き込んだ皮の端っこ辺りから葉のようなものが食み出てる。包丁の断面を開いてみれば顔を出す、
「イカとニラの春巻」の中身。
火傷に気をつけつつ韮の風味たっぷりをバリッと喰らう。
烏賊の身の部分の変化も愉しからずや。
お酒をお代わりして、
「イカ丸干し」のお皿を迎えた日にゃぁ、
呑兵衛気分が最高潮に(笑)。血圧気になるお年頃には、
余りに塩辛過ぎて思わず顔を顰めちゃう場合もある中で、
塩っ気の塩梅もよく、甘さすら感じさせる食べ口。
素晴らしき哉。
これまた秋口ならではの逸品が「栗の渋皮揚げ」。決して渋皮を剥ぐ手間を惜しんだ訳ではなくて(笑)、
渋皮が素揚げするにちょうどいい、
芳ばしき衣になるってぇ寸法なのであります。
今さっき、なめろうで堪能させてくれた秋刀魚くんが、
よりぐっと呑み助寄りに仕立てられてやってきた。その名も「秋刀魚肝醤油漬け焼き」。
“肝醤油”というフレーズにぴくりと反応してしまう方々と、
テーブルを囲むのって仕合せなことだと思うのです(笑)。
どこか似た様な色合いの酒肴が続いていたけれど、
それぞれが何気にちょっとした変化と工夫を織り交ぜていて、
それが愉しくも興味を唆る。「かつおの竜田揚げ」なんてのも、
ありそうでいてなかなか巡り合えない料理ではありますまいか。
それがきちんと仕上がっているのがニクイところなのだ。
荻窪は四面道近く、青梅街道からちょと外れた町筋に、
隠れ家の如く潜む大人の居酒屋「ゆき椿」がある。テーブルから見遣るカウンターの右手には、
料理人然とした大将の姿。
逆手にやや距離を置いて比較的若い職人がいる。
のむちゃんによると、左手の息子さんは中華の心得もあるらしい。
今度はそんなカウンターに陣取って、
春に雪解けが始まってやっとその姿を現すという雪椿を
店の名に冠したその訳を訊ねてみよう。
「ゆき椿」
杉並区天沼3-12-1 2F [Map] 03-6279-9850