その並びには、コンパクトな間口乍ら、 板塀で囲んだ風雅な面持ちの家屋が建つ。旅籠であれば、外国人旅行者に人気の出そうな、 そんな雰囲気を醸し出しています。
頭を少し屈めて入った処には、紅赤の暖簾。その脇には、筧注ぐ水鉢が配されたりなんぞしております。
正面の木戸のところで人数を告げると、おひとり様は大概、 下足を脱いですぐのカウンターに通される。バックバーならぬ正対する棚には、大きな皿や深い鉢など、 色々の大きさ、高さ、厚みで焼いた酒器食器が並んでいます。
此方「十四郎」のおひるは、限定30食の日替わり「おまかせ昼の膳」のみ。 店先からその日の献立が判らず、 今日はなんだろなと考えながら腰を落ち着けることになります。
例えば或る日は、カマスの焼きものが主菜にて。ありそうでいて意外とおひるご飯の膳の上では余り見掛けないカマスくん。 なんだかちょっと贅沢な気分で嬉しがらせます。
別の日には、鶏と卵の二色のそぼろに甘めのあんのかかった鶏のお重。お箸だと不調法となるので、匙でいくのがテンポよく美味しい。 何気に鶏づくしのお重に満足です。
タイミングによっては、いつものカウンターが満席なこともある。そんな時に初めて階上へと案内されました。
6名さまほどの個室の一室で、最近頻出メニューの鶏南蛮。カラっと揚がった衣と程よくジューシーな身肉にタルタル。 タルタルに玉葱が使ってあれば”南蛮”なのか、 こふいふ揚げ口が広く”南蛮”なのかなぁ。 お蕎麦の鳥南蛮には筒切りや斜め切りの長葱が定番だけどなぁとか、 そんなことを考えていたらもう食べ終わっていました(笑)。
帰りがけにもう一方の、表側の階段に回ってみた。幕板には細工が施してあり、 京都・源光庵の悟りの窓ならぬ、円形の窓が陽射しを取り込んでる。 暖簾の前から見上げると、笹の葉の影の理由が分かります。
人形町の裏通りに和装の設えで迎える会席の店「十四郎(とうしろう)」。オーナーの女将が素人から発起して創めたところから”とうしろう”。 夜は夜でおまかせコースの旬な会席料理がいただけるよう。 逆説的に、玄人であること、 玄人としての技術と知識と気概を備えるべく努めていることを暗示しているのでしょうね。 丸ビル35階にもお店があるようです。
「十四郎」人形町本店 中央区日本橋人形町1-5-14 [Map] 03-3662-0163 http://www.touhonpo.com/
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